マーク・トウェイン著「トム・ソーヤーの冒険」(彩流社 1996年)を読んで、トム・ソーヤーの塀塗りの話に感心しました。
トムは、いたずらの罰として、土曜日の休みに家の塀に白色塗料を塗る仕事を、ポリー伯母さん(トムは両親を亡くしている)から言いつけられました。
塀の高さは9フィート(約2.7メートル)、長さは30ヤード(約27.4メートル)もありました。
この塀をトム一人で塗れというのは、たいへん厳しい罰です。トムは知恵を働かせました。
塀の前を通りかかる友達に、トムはいかにも楽しく壁塗りをしている様子を見せつけました。友達がちょっとやらせて欲しいと言っても、断りました。友達が持ち物を代わりに渡すと申し出ると、しぶしぶ塀塗りをやらせてあげました。
通りがかった友達が、次々と塀塗りを行い、持ち物をトムにくれました。
ようやく塗料がなくなって、塀塗りは終了しました。塀のほうは三度も塗り重ねられました。また、友達のリンゴやはじき石など多くの持ち物がトムのものとなりました。
トムの仕事は、塀塗りが本職ではなく、塀塗りという体験をしてもらうサービス業と言えましょう。トムにとっては、遊びのようなものです。
マーク・トウェインさんはこう述べています。
大人でも子供でも、あるものを欲しがらせようと思えば、それを手に入れ難くさせさえすればよい
塀塗りの請負人はトム一人、通りかかった友達は多数。トム・ソーヤーの塀塗りは、ロバート・B・チャルディーニさんが唱える「希少性」の見本とも言えるでしょう(「影響力の武器第三版」 誠信書房 2014年)。