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論文を読む:マーケティング近視眼

論文名:マーケティング近視眼

著者:セオドア・レビット

出典:「ハーバード・ビジネス・レビューBEST10論文」ダイヤモンド社 2014年

発表年:1960年

 

【あらまし】

「近視眼」とは、モノの見方が目先のことだけにとらわれており、大局の見通しがきかないことです。

この論文は、目先の生産や販売にとらわれて、大局である顧客や市場を見通せないと、成長企業であってもいずれは衰退してしまうとの警鐘を鳴らしています。

つまり、主として次の3点を説いています。

1 重要な目的や方針のもとになる自社の「事業の定義」を誤ってはならないこと。

たとえば、衰退したアメリカの鉄道会社は、輸送事業ではなく、鉄道事業と定義しました。そのため、輸送の需要は十分あるのに、鉄道の需要は廃れ、会社は衰退しました。

顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。

2 顧客ニーズを満足させることを目的とする「マーケティング」を軽視してはいけないこと。

著者は、販売とマーケティングは大きく異なると述べています。

販売は売り手のニーズに、マーケティングは買い手のニーズに重点が置かれている。販売は製品を現金に替えたいという売り手のニーズが中心だが、マーケティングは製品を創造し、配送し、最終的に消費させることによって、顧客のニーズを満足させようというアイデアが中心である。

3 マーケティング度外視の大量生産によるコスト優位性や研究開発に没頭してはいけないこと。

それは、既存の製品を駆逐してしまうほどの代替品が登場する可能性があるからです。

実は成長産業といったものは存在しないと著者は確信しています。論文を読み込むと、衰退産業もないと解釈できます。論文の初めの部分に次のように記されています。

成長が脅かされたり、鈍ったり、止まったりする原因は、市場の飽和にあるのではない。経営に失敗したからである。

以上のようなことに留意して、経営者は、経営姿勢、進むべき方向、目標を設定しなければならないとしています。

 

【教訓】

論文に、アメリカの自動車メーカーが誤った「消費者調査」を行ったことが記されています。

それは、会社が売り出そうと決めておいた車のうち、どれを消費者が好むのかを調査したに過ぎないものでした。だから、小型車の需要をまったく予測できませんでした。

僕も、サラリーマン時代、顧客へのアンケート調査に携わった経験があります。アンケート調査票の作成に際しては、仮説を立てました。この論文を読んで、狭い視野で仮説を立てることは良くないと気づきました。

しかしながら、経営資源には限界があります。広い視野に立って進むべき方向などを決め、「選択と集中」を行うことが大切かと思います。

羽生善治さんが永世七冠になられた頃、僕は羽生さんの講演会を聴講したことがあります。

AIは網羅的に手順を読み込みますが、羽生さんは重要な三つくらいの手を決めてから、それらの手順を深く読み込むのだそうです。広い視野で三つほどの手を選ぶのが、腕の見せ所でしょう。

また、羽生さんは「三手の読み」について話されました。一手目は自分が指す、二手目は相手が指す、三手目はまた自分が指す。さて、どの手を読むのがいちばん大事かという問題を提起されました。いちばん大事なのは二手目だそうです(相手の立場になって考えること)。

企業にとっては、二手目の読みこそが顧客や市場を見通すことと言えましょう。