書名:少年と犬
著者:馳星周(はせ せいしゅう)
出版社:文藝春秋
出版年:2020年
この本は、「多聞」という犬と人間の愛情が描かれた物語です。物語の背景に、二つの震災(東日本大震災、熊本地震)が関連しています。
多聞が、東日本大震災で被災後5年かけて、仙台、新潟、富山、滋賀、島根を経由して、目的地の熊本へたどり着きます。
多聞はそれぞれの経由地で、人生に行き詰まった訳ありの人と出会い、そして、悲しく別れていきます。多聞は聡明で従順で、しかも意志の強さも感じさせる犬です。また、出会った人たちは、多聞には驚くほど優しく接します。
物語は、多聞が出会った地域ごとに六つの短編で構成されており、つながっています。読み進めていくと、多聞が東北から熊本に移動できた事情も、わかってきます。
・男と犬
・泥棒と犬
・夫婦と犬
・娼婦と犬
・老人と犬
・少年と犬
目的地の熊本で、多聞は「光」という少年と再会します。
光も東日本大震災で被災し、両親とともに熊本に移住しました。光は震災のショックで、口を利かない、笑わない、泣かない、怒らないという状態になりました。
その光が多聞と再会してから、少しずつ状態が回復していきます。その回復の様子を目の当たりにした両親の感激が散りばめられており、読む者にも素晴らしい感動を与えてくれます。
苦しい日々を耐えてきた光に、神様が手を差し伸べてくれたのだ。多聞こそが神の遣いだ。
その後、熊本地震に被災して、光と多聞の悲しくてたまらない別れがありました。しかし、光や両親の心の中で、多聞は生き続けているようです。
悲しい別離が続きましたが、僕は温かい気持ちに包まれました。