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「豊かさ」の基準とは?

出口治明さんは、著書「還暦からの底力」(講談社現代新書 2020年)の中で、所得税より消費税が望ましいと述べています。

高度成長期には、若者10人以上で1人の高齢者を支えていました。しかし今は、騎馬戦(3人で1人を支える)がこわれはじめて、肩車(1人で1人を支える)に向かいつつあります。

従来の「ヤング・サポーティング・オールド」(若者が高齢者を支える)の体制は維持できなくなってきました。「オール・サポーティング・オール」にパラダイムシフトし、社会全体で実効性のある社会保障の体制にしなければならないと、述べられています。

その「オール・サポーティング・オール」の施策の一つとして、消費税中心の税制にする必要性を提唱されています。

所得税中心では、所得の多い若者に負担が集中します。消費税中心ならば、働いている人も働いていない人も、みんなで社会を支えることができます。

 

しかしながら、所得税累進課税ですので低所得者に優しいけれど、消費税は低所得者にも負担を強いることが問題だと考える人が多いと思います。実は、僕も消費税の逆進性を感じていました。

大竹文雄さんの著書「経済学のセンスを磨く」(日経プレミアシリーズ 2015年)を読んで、僕の考えを転換することができました。

「今年、多くの所得を稼いだ人」と、「今年、多くの消費ができた人」と、どちらが豊かかというのは意外と難しいのです。

勤労者層は比較的所得が多いですが、将来の出費に備えた貯蓄や住宅ローンの返済などがあり、できるだけ消費は抑える傾向があるでしょう。

一方、高齢者などは一般に所得が少ないけれど、資産を持っていることが多く、消費も比較的多いでしょう。

単年度の所得を「豊かさ」の基準とするよりも、消費額そのものを「豊かさ」の基準とすることが時代にマッチするのではないでしょうか。

 

それでも、食料品など生活必需品に消費税を課税するのはいかがなものかと言う議論があります。そこで、我が国でも食料品などに軽減税率が導入されました。一見、それは低所得者に優しい制度だと錯覚されます。

この軽減税率は高所得者にも適用され、彼らも食料品を購入します。軽減税率は、逆進性の緩和に役立っていないのです。

大竹さんは、軽減税率ではなく、定額給付を提唱されています。

仮に、低所得者が、食費に関して支払う消費税相当額を年間3万円として、国民全員に定額で3万円を給付することを考える。(中略)そうすると、消費税負担額から定額給付金を引いた額が、純消費税負担額となる。これなら、消費税の逆進性はなくなって、消費税も累進的にできる。

この大竹さんの案に対して、高所得者にも定額給付金を払うことは、ばらまき政策だとの批判もありましょう。

しかし、よく考えてみると、累進的にならない軽減税率こそがばらまき政策だと言えます。高所得者は、低所得者以上に軽減税率を利用して、食料品などを購入することもできます。

消費税増税の際、僕は軽減税率制度を導入することには批判的でした。事業者の事務負担と制度の複雑さ、そして何より、消費税税率10%の中に軽減税率による減額分が織り込まれているからです。

 

高齢者である僕にとっては、所得税中心のほうが得です。しかし、子や孫のことも思い、全体最適の観点で考えると、消費額を「豊かさ」の基準として消費税中心に変え、正しく運用するべきだと思います。

 

coco02hibi9.hateblo.jp