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心に響く自己啓発

「マネー・ボール」を読んで

書名:マネー・ボール 完全版

著者:マイケル・ルイス

出版社:早川書房 ハヤカワ・ノンフィクション文庫

出版年:2013年

 

原著の発表は2003年で、これはイチローさんがメジャーリーグ入りして3年目、野茂英雄さんがメジャー通算100勝を達成した年に当たります。

この本の舞台は2002年のメジャーリーグです。物語の中心人物は、オークランド・アスレチックスゼネラルマネジャー(GM)を務めるビリー・ビーンです。彼は若い頃、体格が良く、野球でもフットボールでも秀でた才能を持っていました。期待の大型新人ともてはやされてプロ野球選手になったものの、大した成績を残せないまま引退してしまいます。

 

メジャーリーグは、球団によって資金力に大きな差があります。2002年のアスレチックスの選手平均年俸は146万ドルで、メジャー30球団中21位でした。この数字はヤンキースの約3分の1です。しかし、成績は103勝59敗で、プレーオフに進出しました。成績ではヤンキースと同等なのです。少ない出費で、大きな成果を上げる、これがアスレチックスの特徴なのです。

この原動力となったのがビリー・ビーンです。彼はデータを駆使して、従来の常識とは異なる球団運営を大胆に進めました。

試合に勝つための第一の条件は、「得点力」だとデータから導き出します。野手の守備の巧拙より、いかに得点に貢献できるかを優先します。その得点力を伸ばすには、「出塁率」が重要だと言います。打率ではなく出塁率です。だから、「四球」を選ぶ数も重要視します。

試合運びの面でも、犠牲バントや盗塁をしない方針です。自らアウトを増やすようなことはしない。それは、データからバントや盗塁をしないほうが得点力の向上につながるとわかったからです。

ピッチャーについても、必ずしも速い珠を投げることが優秀だと考えません。あくまでデータに基づいて投手起用を考えます。

新人獲得活動についても、客観的なデータを重要視します。大学野球のデータ信頼性が高く大学生を採ります。逆に、高校生は採りません。従来はスカウトが全米各地を回って選手を見て、選手の将来性を判断して獲得してきましたが、それは主観的で失敗のリスクが高いと言います。要は、若い頃のビリー・ビーン自身のような選手を採らないのです。

他球団が見向きもしないような選手でも、データが優れていたら、ドラフト上位で指名します。そうやって、入団契約金が安くなる努力もします。

年俸が高くなって、年俸に見合うパフォーマンスを発揮できない選手はトレードで放出します。逆に、アスレチックスの基準でデータを見て活躍しそうな、年俸が安い他球団の選手を獲得していきます。そうやって、選手年俸も節約していきます。

低コストで高パフォーマンスな球団は、こうしてつくられたのです。

ちなみに、短期決戦のプレーオフでも、アスレチックスは犠牲バントや盗塁をしません。プレーオフで負けましたが、その原因は投手がシーズン中と同等の活躍ができなったことだとデータで分析しています。

 

僕は野村克也さんを想起しました。「ID野球」「野村再生工場」。一見弱いと見られる集団が人気選手のいる強いチームに負けないことは、日米とも同じだなと思いました。

さらに、野球だけではなく、仕事でも、知恵を絞れば低コスト高パフォーマンスを実現する可能性があると思います。この本の知恵を肝に銘じておきたいところです。