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福澤諭吉が費やしたサンクコストとは?

サンクコスト(埋没費用)とは、すでに使ってしまって取り返しようがない投資額や時間のことを言います。たとえば株式投資をしたが、株価が下り回復する可能性がないとき、その投資額がサンクコストと言えます。基本的に、回収できる見込みがないなら、サンクコストはきっぱり忘れて撤退すべきなのです。ただし、一律に撤退がいいとは言えないのが、判断の難しいところです。時間の経過とともに、思わぬ効果が現れて好転することがあるからです。状況を見極める必要があります。

 

大竹文雄さんの著書「あなたを変える行動経済学」(東京書籍 2022年)によると、福澤諭吉さんが大坂の適塾(てきじゅく)で学んだ「オランダ語の勉強」がサンクコストだと、述べられています。大竹さんが参照・引用された福澤諭吉著「現代語訳福翁自伝」(ちくま新書 齋藤孝編訳 2011年)を、僕も読ませていただきました。

福澤さんが25歳の時、江戸の藩邸から蘭学塾を開けという用件で、大坂から江戸へ呼ばれました。彼が江戸に引っ越してわかったことは、外国人と会話してもオランダ語があまり通じない、外国人の店の看板を見ても読めないことでした。彼は英語を学ぶことの必要性に気づきました。

当時の蘭学者の多くは、刻苦勉強した蘭学が役に立たないからといって、新たに英語を勉強することは同じ苦しみをもう一度味わうことになると躊躇(ちゅうちょ)していました。福澤さんの偉かったところは、オランダ語の勉強をサンクコストだと認識し、英語の勉強を始めたことです。

 

しかしながら、ほかに英語を学ぶ近道があったとしても、オランダ語の勉強がまったく無駄だったとは言えないのです。

① 当時は英和辞典というものがなく、何とか最初に入手したのは英蘭対訳発音付の小さな辞書でした。オランダ語を知らなければ、英単語を解釈できません。

② 英語とオランダ語の文法がほぼ同じで、蘭書を読む能力は英書を読むのにも役立ちました。

③ 福澤さんが幕府外国方で働いていたとき、外国からの公文書は、原文のほかにオランダ語の訳文が添えられており、英文の勉強にもなりました。

福澤さんが英語を志したときは、英語を教えてくれる塾もなく環境は恵まれていませんでした。オランダ語の知識を利用して、彼は英語を勉強したのです。

 

ちなみに「現代語訳福翁自伝」を読んだ感想として、最初は読むのにちょっと敷居が高いかなと思っていました。しかし読み進めると、若い頃は大酒飲みであったとか、タバコの火で着物の袖(そで)から煙が出てきたとか、人間味あふれるエピソードがありました。また、「西洋事情」や「慶應義塾」の話題も触れられています。福澤さんは寝食を忘れて勉強に励まれたそうです。その影響を受けたのか、僕はこの本を午前3時頃まで読み続けました。

現代語訳でわかりやすかったとも言えます。機会があれば「学問のすすめ」などにも挑戦してみたくなりました。

 

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