僕が新卒で入社した頃、タバコをたしなむ人がマジョリティでした。自席の机には当たり前のように灰皿が置かれていました。社内研修に出席したらテーブルには、やはり当たり前のように灰皿が一人分ずつ並べられていました。
年月を経て今では、原則として喫煙場所以外では喫煙が許されなくなりました。国立がん研究センターの2019年調査では、全国成人喫煙率が16.9%となり、タバコをたしなむ人がマイノリティになりました。
全面禁煙をうたうスターバックスは、健康志向のビジネスパーソンから多大な支持を得ました。このスターバックスの躍進以降、多くの喫茶店で禁煙が増えました。2020年の厚生労働省の調査によれば、火を点けて喫煙するタバコの屋内全面禁煙を行う喫茶店の割合は54.7%となりました。ちなみに喫煙専用室を設置する喫茶店が6.5%。その他は小規模な喫茶店だと推測されます。
タバコをたしなまないマジョリティに目を向けて全面禁煙に踏み切ることは、正攻法の作戦だと言えましょう。しかしながら、ライバル店がこぞって全面禁煙を採用すれば、禁煙者に目を向ける価値が相対的に低下してしまいます。
市場は小さいけれども、喫茶店で喫煙したいマイノリティに目を向けて、喫煙専用室を用意するなどの喫煙者を歓迎する対策を打つことも、逆張りの作戦として有効と言えます。
タバコと喫茶店を例にして、コインの両面を考察してみました。
ところで、19世紀のアメリカで起こったゴールドラッシュでいちばん儲けたのは、どんな人でしょうか。金鉱を採掘した人ではなく、採掘のための道具や作業服を売った人だと、田中靖浩さんの著書「会計の世界史」(日本経済新聞出版社 2018年)に述べられています。
多くの人がコインの表側を見て同じ方向に向かうとき、あえてコインの裏側を着目すると、チャンスが見つかるかもしれませんね。