井原西鶴著「日本永代蔵」(堀切実:訳注 角川ソフィア文庫 2009年)を拝読しました。この本には、日本各地の商人のエピソードが散りばめられています。なかでも、お金持ちになれる妙薬の話が教訓となりました。
ある貧しい男が裕福な暮らしをしている人から、長者丸(ちょうじゃがん)という妙薬の処方を教えられました。
・早起き5両
・家業(本業に励むこと)20両
・夜業(よなべ:夜遅くまで働くこと)8両
・倹約10両
・達者(健康管理)7両
合わせてこの50両の薬を念入りに調合し朝晩飲めば、お金持ちになれるとのことでした。ただし、ぜいたくやギャンブルなどの毒には絶対に手を出してはいけないと、事細かく教えられました。
「たいへん為になることを教えてもらった。ここは江戸だ。お客さんは大勢いる。ぜひ長者丸の教えを実践したいものだ」と、男は思いました。そこで、元手となるお金がないけれど、商売をできないだろうかと、思案します。
江戸の町を観察していると、仕事を終えた多くの大工たちが木の切れはしを道に落としても気づかないで帰っていくことにハッとしました。「これは商売になる。タダで材料が手に入る」と、男は木の切れはしを一つひとつ拾って歩きました。
雨が降る日には木くずを削って箸を作り、江戸の商店に売りました。男は江戸で有名な商人となり、やがて材木も扱うようになりました。材木商として栄え富を築いたのです。
70歳を過ぎてから、多少の不養生も差し支えないだろうと考え、初めて高価な衣服を着たり美味しいものを食べたりしました。また、世の人々の頼み事も聞いてあげました。
若い頃にお金を貯め、年をとってから社会貢献をすることは大切だ。あの世へは持っていけないが、この世でなくてはならないものと言えばお金だ。「お金の世の中」だとはよく言ったものだと、西鶴は締めくくっています。
経済活動がいっそう発達した現代にも通じるところがあります。達者(健康管理)も重要視しています。健康を害したら、働きたくても働けませんから。倹約、言い換えるとコスト管理も競争力を保つために不可欠でしょう。機械化・IT化や働き方改革が進められている現代社会では、夜業(よなべ)は「家事や育児に関わること」に置き換えたほうが望ましいと思います。