朝青龍関が横綱だった頃、千秋楽の夜、光栄なことに部屋のパーティに参加した思い出があります。廊下でばったり朝青龍関と出会って感激しました。まあ、「出会った」というだけのことですが。
パーティの途中、今場所をもって引退する数人の若い力士が舞台に上がり、出席者に紹介される場面がありました。司会者が「投げ銭をお願いします」と呼びかけています。厳しい勝負の世界ですから致し方ないことですが、ちょっと寂しい気持ちになりました。
4月25日のEテレ「日本の話芸」では、力士の引退にちなんだ落語が放送されました。桂慶枝(けいし)さんというベテランの落語家で、演目は「下町の散髪屋さん」という新作落語でした。
慶枝さんは、ご友人の力士が引退するのに際して、国技館での断髪式に出席されたそうです。多数の関係者の方がちょっとずつ「まげ」にハサミを入れていく儀式です。
慶枝さんが友人の力士にこう語られました。
「お相撲さんはいいですね。引退する時にこんな立派なセレモニーがあって」
友人の力士は答えます。
「断髪式をしてもらえるのは、一握りの力士なんです。ほとんどの力士は、部屋で親方に切ってもらって相撲界を去っていくのです」
この話をヒントにして、慶枝さんは出世できずに引退するお相撲さんの落語を創作なさったわけです。
引退した力士が親方の許しを得て、入門の際お世話になった散髪屋さんに「まげ」を切ってほしいと頼みました。頼まれた散髪屋さんは、商店街の人々、力士の友人などに声をかけて、理髪店で断髪式を催すというストーリーです。
出席者は各々のやり方で、ねぎらいと励ましの言葉をかけながら髪を切っていきます。落語ですから「下げ」が必要です。おそらく慶枝さんは頭をひねられたと思います。
この落語から、故郷に錦を飾ることができなかった力士に対する温かい心を感じました。
引退で終わったのではなく、苦労した経験や体格を活かして、今がスタートラインだと、僕はエールを送りたいと思います。