書名:ある男
著者:平野啓一郎
出版社:文藝春秋(文春文庫)
出版年:2021年
「谷口大祐」という男が、ある田舎町に単身でやってきて、その町で就職し、その町の女性と結婚しました。その男は働き者で、良い夫であり、良い父親でした。そう長い年月ではなかったのですが、家族とともに幸せに暮らしていたのです。
谷口家に突然の不幸が訪れました。谷口大祐が仕事中に事故で亡くなったのです。加えて、あんなに優しく仕事もできる人物であったのに、「谷口大祐」と名乗っていた男がまったくの別人だとわかったのです。
困った妻は、以前お世話になった横浜市の弁護士に相談しました。警察にも事情を説明し届け出をしましたが、同様の事案が警察には多数あるとのことで、積極的に動いてくれません。こうして横浜市の弁護士が探索活動を進めることになりました。
探索の大きな目的は2点あります。
1 「谷口大祐」と名乗りながら死んでしまった男は、いったい誰なのか、どういう事情があったのか
2 本当の「谷口大祐」は、どこでどうしているのか
やはり問題意識を持っていると感覚が鋭くなるのか、ちょっとした糸口から弁護士は探索を進めていきます。弁護士は、関わりのある多くの人々と会っていきます。死んだ男の生き様がわかってきます。本当の「谷口大祐」のこともわかってきます。
弁護士の探索活動を通じて、一人の人物がどう生きたか、その人生を味わうことができます。
この物語には、夫婦間の問題や男女間の問題、親子の問題、人権問題など、様々な社会問題が複線的に存在します。おもしろい作品であり、考察に値する問題を提起しています。
強いて言うならば、本来の探索活動をもっと深掘りしストーリーを展開していただけたら、よりいっそう興味深く拝読できたかなと思います。