書名:白村江
著者:荒山徹
出版社:PHP文芸文庫
出版年:2020年
白村江の戦いは西暦668年に起こりました。倭国が旧百済勢力による百済再興を支援するために大軍を派遣したが、唐・新羅連合軍に大敗したとされています。
この著書は、白村江の戦いが勃発する21年前から開戦に至るまでの経緯を記した歴史小説です。登場する国は、倭国、新羅・高句麗・百済の朝鮮半島3国、それに唐です。
物語は、政変があった百済で敗北した王族の王子が、小さな島に連行されて処刑されそうになるところから始まります。危機一髪のところ、蘇我入鹿に助けられ、倭国に亡命します。
倭国の乙巳の変をはじめ、高句麗、新羅でも血なまぐさい政変がありました。朝鮮半島では、隣国同士の戦争も絶えません。まさに内憂外患です。
500ページを超える長編小説で、次から次へと各地で事件が起こります。当時の東アジアの重苦しい雰囲気が伝わってきます。
小説では、白村江の戦いは、葛城皇子(後の天智天皇)が深謀遠慮の企てによって起こしたものでした。密かに新羅と連携を図り、損害を最小限にして、わざと大敗したように見せかけました。百済再興を妨げ、百済の有能な人材を得たかったのです。
亡命した倭国から海を渡り、百済の再興を図った旧百済の王子が気の毒でした。敗戦により百済王になる夢を果たせず、最愛の妻女が自害してしまいました。
史実に基づきながらも、大胆に著者のフィクションが盛り込まれており、小説の力に驚きました。思いもよらない結末になって、読後しばらく考え込んでしまいました。歴史小説の醍醐味を堪能できる著書であったと思います。