仕事力

心に響く自己啓発

飲食店における「車の両輪」

南インド料理店の総料理長、稲田俊輔さんの著書「お客さん物語」(新潮新書 2023年)を拝読しました。

著者は、料理人であると同時に、他店で楽しむこともモットーにしておられます。ある繁盛している創作居酒屋を訪れました。

しかし、さほど美味しい料理ではありませんでした。なぜ、この店が流行るのか不可解で、それを解決するために同店で働くことにしました。

働いてみると、わかってきたことがありました。

1 調理場などバックヤードでも「客」と言わないルールがあります。では「お客さん」と呼ぶのでしょうか。実はこれもダメで、「お客様」と呼ぶのです。業務連絡であっても「お客様」です。常に「お客様」です。

2 たとえば「テーブル◯番お会計です」は完全にルール違反です。何がダメなのでしょうか? この場合「テーブル◯番様」と言わなければならないのです。

テーブル◯番というのは、そのお客様の名前を知らないから便宜的に使っている仮の名前なのです。仮の名前だからと言って呼び捨てするのは失礼だという店のこだわりです。

3 ちょっと難しいのですが、たとえば「テーブル◯番様から、△、△のオーダー入りました」もルール違反なのです。なぜでしょうか?

待っていたら勝手にオーダーが入るものではありません。お客様にオーダーしていただいて初めて、仕事をさせていただいているという感謝の気持ちが必要なのです。だから、「オーダー入りました」ではなくて、「オーダーいただきました」と言わなければなりません。

4 難問なのですが、お客様をお見送りする時「ありがとうございました」と言うのもルール違反です。語尾が過去形だから、ダメなのです。お客様と次につながる言い回しにしないといけないのです。正解の言い回しは、「ありがとうございます」です。

5 上記の応用問題ですが、一度でも見覚えのあるお客様には「いつもありがとうございます」と言うことにされています。常連のお客様として扱うのです。

ただし、「いつもありがとうございます」という言葉は、お客様との距離を詰めすぎる感があり、著者は封印されています。気軽に店を訪れているお客様に、常連のような無用のプレッシャーを与えてしまうからです。

料理の修行されてきた著者は、このお店で学んだ接客方法や接客態度も活かして、飲食店を独立開業されたのです。

飲食店はお客様に料理を提供します。だから、美味しいと喜んでもらえる料理を提供しなくてはなりません。それと同時に、お客様に気持ちよく過ごしていただけるような接遇の面でも気を配らなければなりません。まるで料理と接遇が「車の両輪」のようです。

ほかの業界でも、同様のことが言えるのではないでしょうか。