仕事力

心に響く自己啓発

「流」を読んで

書名:流(りゅう)

著者:東山彰良

出版社:講談社

出版年:2015年

 

この著書は、1970年代から80年代にかけて主に台湾を舞台とした小説です。主人公の祖父は戦乱の時代、中国大陸で多くの人々を殺しました。多くの人がかたきを討ちたいと憎んでいました。その祖父が殺害され、犯人を追う推理小説でもあり、主人公の青春小説でもあり、オカルト小説でもあり、歴史小説でもあります。これらの要素のブレンドが絶妙です。又吉直樹さんが芥川賞を受賞されたのと同時期に、直木賞の栄誉に輝いた作品でもあります。

歴史小説の面では、日中戦争国共内戦の悲惨さが描かれ、台湾の歴史を垣間見ることができます。また、中国や日本に隣接しているため、台湾の混沌とした街の様子や社会情勢を感じとることができました。社会情勢の影響で、台湾の九官鳥は「中華民国万歳」と鳴くようにしつけられていました。

オカルト的な面では、お狐さんのご利益があったり、幽霊が出てきたり、果てはコックリさんに祖父を殺した犯人のヒントを教えてもらったりもします。

青春小説の面では、大学受験の挫折、暴力、兵役、初恋などが描かれています。プラスチック定規で作ったナイフでの決闘シーンは、読んでいてハラハラしました。刺せば殺人者になる、刺されたら死んでしまう、の二者択一。主人公も相手も、第三の逃げ道を探します。こういう逃げ道があったのだと感心しました。人を人と扱わない卑劣な指導方法をとる兵役。激しい失意に終わる初恋。主人公はどうなるのだろうかという連続でした。

最終章では、祖父を殺した犯人と会うために主人公が中国大陸にわたります。互いの復讐の連鎖が恐ろしいです。主人公は犯人を殺そうとしますが、犯人の家族によって銃で撃たれ傷つきます。犯人は戦乱の時代、主人公の祖父に助けられたにも関わらず恨みを抱いていた男であり、自分の家族を守るため罪をかぶります。

主人公のセカンドラブが実って、一応ハッピーエンドとなります。ただし物語の途中で、主人公は将来、破局が訪れることを明言しています。ラストシーンでは、その妻との生活が始まるところが描かれ、独特の表現力に感心しました。

「流」は、主人公にも主人公の家族にも台湾にも当てはまる、激動を象徴する書名です。そして、この著書の読者もまた、「流」のような気分になってしまうでしょう。