仕事力

心に響く自己啓発

「たゆたえども沈まず」を読んで

書名:たゆたえども沈まず

著者:原田マハ

出版社:幻冬舎

出版年:2017年

 

書名の「たゆたえども沈まず」はパリ市の標語で、「ゆらゆらと揺れ動いて不安定であるが、決して沈まない」という意味があります。パリはどんな危機に見舞われても、決して沈まないということです。

 

この本は、画家のフィンセント・ファン・ゴッホと、その弟で画商支配人のテオドルス・ファン・ゴッホの生涯を描いています。物語には、パリで浮世絵などの日本美術品を売る美術商、林忠正(実在)と、その部下であり学校の後輩である加納重吉(著者の創作)が登場し、ゴッホ兄弟と深い関わりを持ちます。

同時期にパリにいた林とゴッホ兄弟ですが、史実では接点があった記録はありません。彼らの交流を著者が創作することで、物語に膨らみを持たせています。

その頃のパリでは、古典的な西洋絵画が主流で、浮世絵など東洋の美術品が流行り出し、西洋絵画ではモネやルノワールなどの印象派がしだいに世間で認められていく時代でした。フィンセント・ファン・ゴッホの作風は、印象派よりさらに前衛的なもので、まだ世間に受け入れられませんでした。

 

物語は、主に弟、テオドルス、あるいは加納の視点から描かれています。フィンセントの夢が壊れていくのが、彼らの視点から伝わってきます。

フィンセントは、画商の会社に入ったのに勤まらず、宣教師になろうとしたが夢かなわず、自ら才能を見出し画家として生きていきました。しかし、弟、テオドルスの経済的支援、林や加納の理解・協力があったにも関わらず、フィンセントはピストルで自死します。

フィンセントの創作活動には、テオドルスの支援が欠かせませんでした。そのテオドルスも、兄の死から約半年後に精神科病院にて病死します。ゴッホ兄弟は二人とも繊細でした。

フィンセント・ファン・ゴッホ 1890年7月27日死去 享年37歳

テオドルス・ファン・ゴッホ 1891年1月25日死去 享年33歳

 

テオドルスには、妻のヨハンナと幼い子どもがおり、いっそう痛々しく感じました。慰みとなったのは、フィンセントの作品や記録をすべてヨハンナが相続して、後世に伝えたことです。

「たゆたえども沈まず」ように、ゴッホ兄弟は必死に挑戦しましたが、やはり最後は悲しい物語でした。