養老孟司さんは著書「バカの壁」(新潮新書 2003年)の中で、自分から情報を遮断する壁が存在すると述べています。
北里大学薬学部の学生(当時、女子6割強・男子4割弱)に、ドキュメンタリー番組を見せたところ、著者はそう実感したとのです。イギリスのBBC放送が制作した、ある夫婦の妊娠から出産までを詳細に追ったビデオです。女子学生のほとんどは、ビデオの細部まで熱心に見て、新たな発見があったというのが感想です。真剣に細部まで見ると、登場する妊婦の痛みや喜びといった感情も伝わってきます。
これに対して、男子学生は、授業で習ったのでわかっているとの感想で、女子のような発見ができませんでした。ここに一種の「壁」が存在するとのことです。男子学生は、出産ということに実感を持ちたくないので、知ったかぶりをして自ら情報を遮断したのです。
五感から脳への入力をx、脳からの出力をyとすると、「y=ax」という1次方程式ができます。何らかの入力情報xに、脳の中でaという係数をかけて出てきた結果、反応がyというモデルです。
男子学生が先ほどのビデオに興味を持たなかったのは、係数aがゼロ、あるいは限りなくゼロに近い値だったからです。普通は、何らかの入力xがあれば、反応yをするはずです。反応がなかった彼らにとっては、ビデオのことは現実ではないということになります。だから、「話せばわかる」は嘘で「話してもわからない」事例だと、著者は述べておられます。
ちなみに、この1次方程式で「感情」についても説明ができるそうです。係数aがゼロより大きい場合を「好き」とすると、aがゼロより小さい場合は「嫌い」となります。
おもしろい知識を得たので、僕をxとした場合、係数aはプラスかマイナスか?と、妻に聞いてみました。しばらく考えた末、結局「家族だから、何とも言えない」という返事でした。
愛情を超越したのか、あうんの呼吸なのでしょうか。こういう返事の場合はどう解釈したらいいのか、著者に教えてもらいたいところです。