仕事力

心に響く自己啓発

「銀河鉄道の父」を読んで

書名:銀河鉄道の父

著者:門井慶喜

出版社:講談社

出版年:2017年

 

この本は、宮沢賢治の父、宮沢政次郎を主人公とした物語です。

長男の賢治は、「雨ニモマケズ」を始めとした文学作品から見て謹厳実直なイメージがありますが、この本を読んで、そのイメージがガラッと変わりました。父のほうこそ、謹厳実直だと感じました。

 

政次郎は、家業である質屋と古着商の商売に励み、コツコツと財を成し、地元、花巻の名士になります。家庭では、賢治を筆頭に4人の子宝に恵まれました。

政次郎は、明治時代の父親らしく振る舞おうとしますが、逆に賢治に振り回されるばかりです。「質屋に学問はいらない」と言いながらも、賢治の中学、そして盛岡高等農林学校への進学を認めてしまいます。物語の中で表現されるように「父でありすぎる」のでしょうか、基本的に子煩悩なんですね。

 

賢治は家業を継ぐ気がなく、あっちへふらふら、こっちへふらふらとし、そのくせ、「実験の費用が必要だ」「本を買いたい」とか、父にお金の無心をします。堅実な商人であるはずの父は、その無心に応じてしまいました。

賢治が「飴(ドロップ)の工場を経営したい」「人造宝石を作る事業をしたい」と言ってお金を当てにした際は、さすがに父も相手にしませんでした。事業を起こすには、どのような苦労が必要なのか、賢治はわかっていないのです。賢治は裕福な家庭で育ったお坊ちゃまと言えましょう。

 

質屋は資金繰りの困った人にお金を貸して、利息を取って儲ける商売です。だから賢治は、家業を継ぐ気がなかったと思われますが、そうして儲けたお金を当てにして、自己矛盾がなかったのでしょうか。

 

東京へ一人旅をし文具屋で原稿用紙を見た瞬間、「これだ」と賢治は気づきました。天才の文章力が開花しました。賢治の夭逝(ようせい)後、彼の作品は世に認められました。そのことをいちばん喜んだのは、政次郎であったのではないでしょうか。

 

5月(2023年5月5日)に、この本を原作とした映画が公開される予定です。「主役は役所広司宮沢賢治役は菅田将暉。いっしょに映画を見たいね」と、妻を誘いました。妻は、「アバターの2作目が見たい」と答えました。「うん、そうしよう」。僕はかなり付和雷同です。