仕事力

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論文を読む:従業員が仕事に愛情を持てる職場をつくる

論文名:従業員が仕事に愛情を持てる職場をつくる

著者:マーカス・バッキンガム(ADPリサーチ・インスティチュート人材・パフォーマンス部門長)

出典:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2022年8月号 ダイヤモンド社

発表年:2022年

 

【あらまし】

2021年のアメリカでは、労働者の4人に1人が離職し、今もその勢いが続いています。この論文は、人材を引き寄せつなぎ留めるには、誰もが仕事を愛せるような職場づくりが必要だと説いています。

空前の退職者数が示す根本的な問題

著者が勤めるADPリサーチ・インスティチュート(ADPRI)の5万人規模の最新調査では、賃金水準、同僚への思い、勤務地、組織ミッションの信奉でさえ、退職問題解決に有効ではありませんでした。

「仕事の中身そのものへの愛情」を軸として業務を組み立てることこそが、解決策となります。

なぜ仕事に愛情が必要なのか

調査によると、日々の仕事を通して愛情、力強さ、喜び、高揚を感じている人々は、そうでない人々と比べて、高い生産性を発揮し、会社での在籍期間が長く、人生の苦難を耐え抜く可能性も上回っています。

リーダーが部下に、毎日の仕事の一部でも愛せるよう、手を差し伸べるべきであると説いています。

職場づくりの原則1 従業員こそが要である

職場づくりの土台をなすのは、従業員一人ひとりの重要性を認識し、それに関与しようとする姿勢です。

職場づくりの原則2 十人十色である

人はそれぞれ考え方や感じ方が違います。

画一化を避けるために、企業はチームを柱に据えなくてはなりません。前提として、チームメンバー間で信頼関係を築き、メンバーの独自性を許容します。

そして、リーダーやチームメンバーは、チームの一員がそれぞれ、仕事のどの部分に愛情を持っているのかを理解し、好きな仕事への取り組みに力添えすることが必要です。

職場づくりの原則3 信頼が成長の糧である

仕事への愛情が生み出す高業績と信頼の間には、強い関連性があることが調査から判明しています。

上意下達の目標、業績査定、360度評価などは、メンバー間の信頼を蝕みます。

むしろ、リーダーを介してメンバーに心配りをすることにより、信頼を醸成すことが大切です。そのため、リーダー層に権限を委譲するともに、責任範囲を狭めることによって、メンバーへの心配りを可能にします。

毎週、チェックインミーティング(進捗状況を確認するためのミーティング)を行うことにより、メンバーはリーダーに信頼を寄せます。

リーダーがメンバーに問いかけるべきことは、次のとおりです。

・先週は何が嬉しかったですか

・何が嫌でしたか

・来週の優先課題は何ですか

・私にできる最善の手助けは何でしょう

以上、愛情を柱とした仕事を再設計する取り組みを進めるならば、やがて逸材が続々と集まってくることだろうと言及されています。

 

【教訓】

「仕事に愛情を」なんて言うと、「ええっ」と驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。

過去に、この論文と比較的似た研究がありました。フレデリック・ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」です。1966年に、一般読者向けに解説した「仕事と人間性」が出版され、産業界で大きな反響を呼びました。

ハーズバーグは、企業内における「動機づけ要因」(仕事を一生懸命やりたくなる要因)と「衛生要因」(がっかりして職場に不満を持つ要因)を調査研究しました。

動機づけ要因は、「仕事に直接関連する要因」(達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進など)です。衛生要因は、「仕事の周辺的な要因」(会社の政策と経営、監督技術、給与、上役との対人関係、作業条件など)でした。

ハーズバーグの研究には、「労働者はそもそも仕事が嫌いで、働いてもらうには賃金や環境などの改善が不可欠だ」という固定観念から脱却することを促す効果がありました。

本論文で提唱されている「仕事の中身そのものへの愛情」は、ハーズバーグの理論で見ると、「動機づけ要因」でもあり「衛生要因」でもあると言えましょう。また、「仕事の中身そのものへの愛情」を探究することは、ハーズバーグの研究をさらに深化させるものとも言えましょう。

賃金や福利厚生面でのコンプライアンスは当然として、仕事の中身そのものにフォーカスを当てることが、今、再び求められているのではないでしょうか。