書名:コン・ティキ号探検記
著者:トール・ヘイエイルダール
出版年:2013年
この本は、著者のヘイエルダールら6人のクルーがペルーから南太平洋のポリネシアまで古代と同じ造りの筏(いかだ)で漂流*1した体験記です。
著者は、ノルウェーの人類学者です。ポリネシアを訪れて歴史や文化を調べているうちに、ポリネシア人の祖先は古代ペルーの人々がバルサ材の筏で南太平洋を漂流して住み着いたものではないかという仮説を思いつきました。
従来の学説では、ポリネシア人は、東南アジアから島づたいに東へ移動してきたと言われてきました。しかし、東南アジアから南太平洋の中央に乗り出して行くには、南北赤道海流や貿易風が進路に逆らうので、困難だと思われます。これに対して、南アメリカから西に航海していくと考えれば、順風・順流に乗ることができると、著者は考えました。
また、イースター島には、世界の謎とされている巨大な石像が残っています。この石像は、南アメリカや中央アメリカのピラミッドや巨石文化とつながりがあるのではないかと、著者は考えたのです。
著者は、古代の南アメリカの人々がポリネシアに移動したとする内容の論文を発表しました。しかし、他の学者は誰も賛同しません。そういう遠距離の航海は当時の技術では不可能だと一蹴されました。
著者の学説を実証するために、実験漂流を決意します。資金調達、資材の調達、クルーの募集、米国の協力、ペルー政府の許可など、周到な準備が必要でした。バルサ材は、エクアドルの危険なジャングルの奥地まで入って切り倒しました。集めた材木は川を利用してペルーの港まで運びました。
最長15メートル直径1メートル前後のバルサ材9本で、帆走(はんそう)の筏を組み立てました。筏は「コン・ティキ号」と名づけられました。太陽の祖先という意味です。ポリネシアでは祖先崇拝が行われ、最初の祖先はティキです。
1947年4月28日、「コン・ティキ号」がペルーの太平洋岸に進水しました。そして、6人のクルーが事前のテストもしないままに筏に乗り組み、101日間の漂流を生き延びたのです。途中、高波、ハリケーン、サメなどに襲われますが、全員無事にポリネシアに到着しました。見た目の無謀さとは裏腹に、実際は綿密な計画のもとで有史以前の操船術を研究した上での実験でした。
著者は、自分の研究が正しいと思えば多数意見にひるむことなく勇敢に立ち向かいました。著者を支えた5人のクルーの協力や活躍も見事でした。
僕はこの本を読みながら、「インディー・ジョーンズ」の映画を見ているような気分になりました。探検中のトラブルへの対処だけでなく、事前の周到な準備も手を抜けません。探検というのは、命がけの勇気と冷静な頭脳、逆境にくじけない体力が必要だと、つくづく思いました。