1985年4月23日、コカ・コーラ社は「ニュー・コーク」を発売しました。
日本では発売されなかったこともあって、あまり知られていませんが、アメリカではこれが炎上とも言える大騒ぎとなりました。
まず、コカ・コーラ社がこの新製品を発売した経緯を説明します。
1974年から1983年にかけて、ペプシコ社が「ペプシ・チャレンジ」という公開味覚テストを繰り返し、常にペプシ・コーラがコカ・コーラよりも高評価となりました。併行して、若手世代にターゲットを絞った「ペプシ・ジェネレーション」というCMも成功しました。この結果、コカ・コーラのシェアは低下し続け、ペプシ・コーラが肉簿してきました。
これに対抗するために、コカ・コーラ社で当時の会長であったロベルト・ゴイズエタが、中核商品であるコカ・コーラの変更検討を指示しました。1世紀以上にわたる歴史を持つコカ・コーラの味を変えるという一大事です。約20万人の試飲テストを行った結果、ペプシ・コーラに勝てると算段し、最初に述べたように「ニュー・コーク」が発売され、従来のコカ・コーラは販売を中止しました。
しかし、従来のコカ・コーラに慣れ親しんだ全米の顧客に受け入れられず、1日数千本の抗議電話が殺到する事態になりました。
信頼回復のため、コカ・コーラ社は急きょ2か月半後の7月11日に「コカ・コーラ・クラシック」を発売しました。
荒木博行著「世界『失敗』製品図鑑」(日経BP 2021年)によると、コカ・コーラ社の失敗の原因を一つ言えるとすれば、
それは意思決定そのものではなく、それを伝える際の経営陣の「態度」や「見え方」にあるのだと思います。
と述べられています。
ニュー・コークを発売する際、ゴイズエタは味を変える理由について、研究者によって発見された「偶然の産物」というストーリーを自信満々に話しました。本当は、偶然の産物でもなく、顧客を軽視したのでもありません。ペプシを意識した発言をしたくなかったのです。
しかし、顧客は、唐突に思いつきのように「新しい味を発見したから変える」というように感じ、反発しました。つまり、コカ・コーラ社の姿勢に反発したのです。
「コカ・コーラ・クラシック」の発売発表における記者会見で、ゴイズエタは謙虚に頭を下げ、誤りを認めました。短期間で誤りを認め修正したことは、信頼を回復させ、コカ・コーラを飛躍させるきっかけとなりました。騒動の収束後、コカ・コーラの人気はペプシ・コーラを上回り、トップシェアを守り続けています。
荒木さんは最後にこう述べています。
一度失敗しても、そこから謙虚に学ぶ姿勢は、新しいポジティブなストーリーを生み出す可能性につながるのです。
顧客にどのようなストーリーで語れば良いかが、わかる貴重な事例でした。これは「失敗は成功のもと」の事例とも言えましょう。