大山泰弘さんは、知的障害者を全従業員の7割以上雇用している日本理化学工業*1の経営者でした。同社はチョークを製造する会社です。彼の著書「利他のすすめ」(WAVE出版 2011年)を拝読して、知的障害者を主力とする工場をつくることを決意され、多くの壁を乗り越えられたことがわかりました。障害者が補助的な業務をやるだけでは経営が成り立ちません。よって、障害者にも一人前の仕事をやってもらうことが何としても必要でした。
しかしながら、健常者が行う場合の正しい手順を教えても、知的障害者は理解できません。量りを読めない、時計がわからないとかという問題が生じます。今まで正しいと考えていた手順を見直さなければなりません。
たとえば、材料の配合。
ある材料を○○グラム計量するのに、健常者であれば量りの目盛りを確認します。知的障害者はそもそも○○グラムということ自体が理解できません。大山さんたちは、何度も何度も説明しましたが、彼らは目盛りの確認ができません。
チョークの材料が入っている容器のふたと必要量のおもりを同じ色にして用意しました。赤いふたの容器に入っている材料を量る時には、赤いおもりを秤に乗せる。青いふたの時には、青いおもりを乗せる。こうして材料の配合を障害者だけでやってもらえるようになりました。
またたとえば、JIS規格に基づくチョークの太さの品質管理。
健常者であれば、一定の寸法が保たれているかをノギスで口金を測って確認します。障害者には、一定の直径の検査棒を口金に差し込んでもらって検査するようにしました。
さらにまた、時間を計る場合は、時計ではなく、必要な時間を設定した砂時計を用意して確認してもらうようにしました。
このように一つひとつの工程を障害者がやれるように作業方法や設備を見直して、工場が成り立っています。日本理化学工業では、工場の作業員のほとんどが知的障害者なのです。
大山さんは、障害者ができないことを障害者のせいにしてはいけないと言います。自分が変わらないといけない。自分が変わると、相手も変わり始めます。
創意工夫の大切さを痛感しました。学校では先生が問題を解く正しい手順を生徒に教えて、生徒がその手順どおりに問題を解いていって正しい答えを導くことが大切です。けれども、手順を変えて、正しい答えを導き出すことも大切だと、大山さんに教えていただきました。