以前仕事で、日本で活躍しておられる中国人の経営者とお会いした際、その方は「労働」の「働」を見て、「中国にはない字が日本にはあるのですね」とおっしゃいました。
大山泰弘さんは、知的障害者を全従業員の7割以上雇用している日本理化学工業*1の経営者でした。彼の著書「日本でいちばん温かい会社」(WAVE出版 2016年)によりますと、「働」は日本で創られた漢字*2だそうです。「人」と「動」という文字が合わさってできています。大山さんは「人のために動く」から「働」になったのだろうと解釈しておられます。
大山さんの別の著書「利他のすすめ」(WAVE出版 2011年)には、こんなエピソードが記されています。
大山さんが二人の知的障害者を初めて雇ったのち、禅寺の住職さんとお話する機会が訪れました。大山さんはこう質問しました。
「うちの工場には知的障害をもつ二人の少女が働いています。施設にいれば楽ができるのに、なぜ工場で働こうとするのでしょうか?」
住職さんはこう答えられました。
「人間の幸せは、ものやお金ではありません。
人間の究極の幸せは次の四つです。
人に愛されること。
人にほめられること。
人の役に立つこと。
そして、人から必要とされること。
愛されること以外の三つの幸せは、働くことによって得られます。
障害をもつ人たちが働こうとするのは、
本当の幸せを求める人間の証(あかし)なのです」
働くことによって三つの幸せを感じることができるのだ。だから、障害者たちはつらくても、しんどくても、必死になって働こうとするのだと、大山さんは考えました。
そして、日本理化学工業は知的障害者の雇用を増やしていきました。大山さんは障害者雇用のご経験から、「愛される幸せ」もまた、働くことによって得られると考えるようになりました。社員同士が助け合い、支え合い、困難な仕事に立ち向かう姿を見て、信頼関係という「愛」を見いだされたのです。
住職さんがおっしゃった幸せの話は、障害者だけでなく、すべての人にあてはまることです。もし仕事のやる気が損なわれるようなことがあった場合、住職さんの言葉に立ち返ってリフレッシュできたらいいなあと思います。