仕事力

心に響く自己啓発

捨てる神あれば拾う神あり

大山泰弘さんは、知的障害者を全従業員の7割以上雇用している日本理化学工業*1の経営者でした。同社はチョークを製造する会社で、最初は東京都大田区にありました。彼の著書「日本でいちばん温かい会社」(WAVE出版 2016年)を拝読しますと、ご縁というのはどこにあるか、わからないものだなと思います。

1 養護学校からの就職あっせん

養護学校の先生が、黒板に置いてあるチョークの箱に目を留められました。そこに書かれた「日本理化学工業」という会社の住所は、養護学校がある世田谷区の隣の大田区です。

養護学校の先生が、卒業予定の知的障害者の就職をあっせんするために、同社を計3回訪ねてこられました。ただし、3度目の訪問では、就職ではなく職業体験をお願いされました。

当時の大山さんは、障害者には縁遠い生活で先生の訪問に戸惑うばかりであり、就職はお断りしました。しかし、2週間程度ならということで、職業体験を受け入れました。

受け入れられた二人の知的障害者は、同社で最も簡単な作業を熱心に取り組みました。その姿には、何か心を打つものがありました。

今日が職業体験の最後という日のお昼すぎに、社員たちが「私達がめんどうをみますから、あの子たちを雇ってあげてください」と言ってきました。

「みんながそこまで言ってくれるなら」ということで、大山さんは二人の障害者を雇用することにしました。

大山さんご自身が、当初は捨てる神でしたが、職業体験を経て拾う神に変わりました。

2 本社工場の移転

大田区の本社工場付近の宅地開発が進み、騒音などの問題もあって、移転の必要が生じました。

そこで、東京都に支援を相談したところ、

「東京都では、大田区に福祉工場をつくる計画を進めている。民間企業の障がい者雇用を支援するつもりはありません」

と取りつく島もありませんでした。

気を取り直して、大田区と川をはさんで隣の川崎市に相談しました。ありがたいことに、

川崎市障がい者施設の延長線上に雇用施設をつくるのではなく、みなさんのような企業に障がい者を雇用していただくのがいちばんよいと考えています。ぜひ、サポートしたい」

と、市内の土地を貸してもらうことになりました。

まさに「捨てる神あれば拾う神あり」です。

3 融資の相談

長年おつきあいのある地元の信用金庫に、本社工場の建設にかかる融資を相談しましたが、けんもほろろに断られてしまいました。ほかにつきあいのある金融機関がなく、大山さんは途方に暮れました。

ところが一転。得意先開拓している銀行の営業マンがたまたま同社を訪れました。大山さんは、事業計画など思いのたけを訴えました。その営業マンは「検討します」と言い、ついに銀行の支店長の承諾がもらえました。

これまた「捨てる神あれば拾う神あり」です。

ビジネスや交渉事には相手があります。断られても、相手の立場や状況によって結果が変わる場合があります。「捨てる神あれば拾う神あり」をちょっと意識しておきましょう。

*1:坂本光司さんの著書「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版 2008年)で、「日本理化学工業」が紹介され有名になりました。