仕事力

心に響く自己啓発

グラミン銀行とは?

経営学者の井上達彦さんは、著書「模倣の経営学」(日経ビジネス人文庫 2015年)の中で、従来の事業の逆張りを行う反転模倣についてグラミン銀行を例にして述べています。

グラミン銀行は、1983年にバングラデシュムハマド・ユヌスさんが創設しました。この銀行は、貧困にあえぐ女性層を融資対象として無担保で少額融資をすることを特徴としています。

村の貧困層は高利貸しからお金を借りているため、苦しい生活から抜け出せません。ユヌスさんが村の人々の実態を調べたところ、たった27ドルを借りて返しての繰り返しをしていることがわかりました。

そこで、彼は少額の銀行融資を行うことで貧困層の自立を図ろうと考えました。ただし、男性に貸すと、賭け事などに使われてしまう恐れがあります。貸し付ける対象は女性としました。女性たちは、継続的に融資を受けられないと生活できなくなるという意識を強く持っていました。

無担保だと与信力が弱いのですが、ユヌスさんは、貧困にあえぐ女性たちは、借りたお金を返済して、また借りるということを繰り返さない限り生きてゆけないわけだから、それこそが一番の保証になると考えました。

グラミン銀行は、1回の返済額を少額にして、返済することに抵抗感が生まれないようにしました。具体的には、少額融資の期限を1年間とし毎週定額で返済してもらいました。3か月返済し続ければ返済残高は4分の3となり自信がつくし、半年もたてば残りも半分ということで、返済することに喜びを感じるそうです。実に返済率は90%を上回るとのことです。

こうして貧困にあえぐ女性たちの自立を促しました。ユヌスさんの活動は、その功績が認められ、ノーベル平和賞を受賞することになります。彼が生み出したグラミン銀行の少額融資は、他の国々でも貧困層の自立を促すモデルとなりました。

グラミン銀行は、既存の銀行を反面教師とした反転模倣を行ったのです。

・金持ちに融資せず、貧困層に融資する。

・高額融資をせず、少額融資をする。

・都市で業務を行わず、農村で業務を行う。

・融資の担保は取らず、無担保融資をする。

・男性を相手にせず、女性を融資対象とする。

・顧客を呼びつけず、顧客を訪れる。

・顧客の過去に注目せず、未来に焦点を当てる。

金融機関出身の僕には、まったく思いつかない発想でした。融資である以上、返済してもらわないとビジネスが成り立ちません。きちんと返済して、また借りたいという意欲に着目して与信したことが一番の成功要因だと考えられます。

しかし何と言っても、貧困層を助けようとするユヌスさんの温かい心と強い熱意が、このような逆転の発想に結びついたのだと思います。