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ロバート・アイガーがスティーブ・ジョブズに「ピクサーの買収」を提案する

ウォルト・ディズニー・カンパニー元CEOのロバート・アイガーさんの著書「ディズニーCEOが実践する10の原則」(早川書房 2020年)を拝読しました。アイガーさんの平社員時代からディズニーCEO時代に至るまでの数々のエピソードが散りばめられた著書です。会社の所有者、経営者、上司が次々と変わっていきます。彼はその中で学び、そして実力を発揮してCEOに登りつめました。

アイガーの偉業の一つ「ピクサーの買収」に視点を当てたいと思います。

ディズニーの先輩CEOはマイケル・アイズナーさんで、ピクサーと提携して「トイストーリー」を創るなど、やり手の経営者でした。アイガーは、アイズナーの下でCOOも務め、部下として10年仕えました。

しかし、ディズニーとピクサーはお互いに立場を主張しあい、関係が悪化しました。アイズナーとピクサーCEOであるスティーブ・ジョブズさんの間にも確執が生じました。またディズニーのアニメーション部門は、ヒット作や人気キャラクターが誕生せず低迷が続いた時期でした。

アイガーは、アニメーション部門を立て直すためにはピクサーの買収が不可欠だと考えました。けれども、アイガーもまたアイズナーと同じだと、ジョブズに冷たい目で見られていたため、関係改善は一筋縄ではいきません。

アイガーは自身のCEO内定発表の前日、ジョブズにその旨を連絡しました。ジョブズの反応は「そりゃよかったね。ま、落ち着いたら連絡してくれ」という程度のものでした。

その後アイガーは、ピクサーのことには触れず、ジョブズが興味を持ちそうな「iPod」のことを話題として連絡しました。気を良くしたジョブズはディズニーのオフィスを訪れ、新しい「iPod」のデバイスを披露してくれました。誰にも内緒にしてくれとのことでした。

新しい「iPod」発表の10日前に、アイガーはジョブズにまた電話を入れることにしました。午前中いっぱい勇気を振り絞り、午後になってやっとジョブズに電話をかけました。ジョブズが不在であったため、内心ほっとしました。

しかし、ジョブズから折り返しの電話がかかってきました。「iPod」の件を数分話した後、アイガーはこう切り出しました。「とんでもないアイデアがあるんだが、話しに行っていいか」と。

ジョブズは「今すぐ聞きたい」と言いました。アイガーは拒絶されるかもしれない不安を抱えながら「ディズニーがピクサーを買収するというアイデアはどうだろう」と話しました。意外にもジョブズは「もっと話し合いたい」と言い、買収の交渉が前進することになりました。

ジョブズがディズニーの大株主になり取締役にもなること、ピクサーの文化を守ることなどが交渉され、三方良しの買収交渉が進みました。

買収が発表される数時間前に、ジョブズからすい臓がんが再発したことを告白されました。アイガーは責任の重い判断を迫られました。

その後、ディズニー、ピクサー両社の役員、社員の支持を得、この買収計画は成功しました。そのおかげでアニメーション部門も立ち直りました。

アイガーは、気難しいジョブズに対して、自身のCEO内定を公表前に伝えたり、新しい「iPod」の話をしたりして相手の懐に飛び込みました。買収というハードルの高い提案でしたが、上から目線にならないよう注意して、最後は運を天に任せて交渉しました。

目的達成のために最善を尽くす教訓となる事例だと、僕は思います。