仕事力

心に響く自己啓発

スピーチも逆転の発想で

志賀内泰弘(しがない やすひろ)さんの著書「元気が出てくる『いい話』」(グラフ社 2004年)によると、著者は土砂降りの日に披露宴のスピーチを頼まれたそうです。スピーチは主賓から始まり、著者は最後の6番目に登場する順番になっています。

主賓のスピーチは「本日はお日柄もよく」と言いたかったのでしょうが、土砂降りのため「本日はあいにくの天気で」という言葉が冒頭でした。2番目の来賓も同じ始まり方です。結局、5人のうち4人まで「あいにくの……」というスピーチをしました。

次は著者の出番です。結婚式という晴れの日だということを意識して、何とか場を盛り上げたいと思うのですが、いい考えが浮かびません。困りながらマイクを握った瞬間、外出時に著者のお父さんが言っていたことを思い出しました。著者のスピーチです。

「今日はめでたい土砂降りでございます。今日、出がけに父から聞かされました。雨の日の結婚式は縁起が良いと。なぜ? と訊く(きく)と父は教えてくれました。幸せが家の中に降り込むからさ、と。本日は天から幸せが、ご両家に降り込んでいます。末永くお幸せに」

会場は大いに盛り上がったとのことです。

 

僕はサラリーマン時代、送別会で転勤する先輩に対し職場の同僚としてスピーチをするよう指名されました。その先輩はあまり良い転勤ではなかったので、どんなメッセージが適切か、困惑しました。

先輩には先を読んで段取りをすることなど、貴重なご指導をいただきました。また、ビジバシ、胸にグサリと刺さるような厳しい言葉もいただきました。

僕はスピーチの指名を受けてから、毎晩風呂に入りながら考えました。やはり、ご指導を受けたお礼と今後のご活躍を話すべきだろうかと。それでは場が白けないだろうか、ほかに何か言うべきことがないだろうかと、思案しました。

送別会の会場に出向く電車の中で、突然パッとひらめきました。僕は次のような趣旨のことを話しました。

「先輩には貴重なご指導をいただき、ありがとうございました。また、胸にグサリ、グサリと刺さるような言葉もいただきました。僕がもっと成長したら、先輩に言い返そうと思っておりました。ところが、その前に先輩が転勤なさることになりました。残念でなりません」

お陰様でしゃちこ張ったあいさつにならず、職場の同僚として無難なメッセージを送ることができました。

マイナス面を逆手に取ることがキーです。スピーチの場合も、逆転の発想が大切だと思いました。