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論文を読む:ブルーオーシャン戦略

論文名:ブルーオーシャン戦略

著者:W.チャン・キム、レネ・モボルニュ

出典:ハーバード・ビジネス・レビューBEST10論文 ダイヤモンド社 2014年

発表年:2004年

 

【あらまし】

ビジネスの市場には「レッド・オーシャン」と「ブルーオーシャン」が存在します。後者で事業を営むことが望ましく、その構想に基づいた戦略をブルーオーシャン戦略と言います。

レッド・オーシャンとは、あらゆる既存市場のことを指します。この市場では、ライバルを出し抜き、既存の需要のなかでより大きなシェアを獲得しようと、互いに競争します。競争が激化するにつれて商品・サービスのコモディティ化が進み、収益性や成長性が減退し、やがて市場は血の海と化してしまいます。

一方、ブルーオーシャンとは、まだ存在しない市場であり、手垢のついていない市場です。この市場では、需要は競争して勝ち取るものではなく、自らつくり出すものです。ただし、成長の機会には事欠かず、収益性も期待されます

従来の戦略は、つまるところ、差別化と低コスト化のどちらかを選択する問題と言えます。差別化のために大きな価値を提供するにはコストが高くなり、逆にコストを下げれば提供価値(バリュー・プロポジション)は低くなります。

これに対して、ブルーオーシャン戦略の最も重要な特徴は、大きな提供価値と低コストを両立することにあります。差別化ができる価値は、これまで誰も提供していなかったものを提供することによって生まれます。コストは、他社が競争している要素を自社の事業活動から取り除くことによって削減できます。高い提供価値と低コストを備えた商品やサービスのおかげで売上げが伸び、それにつれてスケール・メリットが生まれ、コストがさらに下がるという好循環が生まれます。

ブルーオーシャン戦略はこれまでも存在していましたが、あまり認識されませんでした。しかし、ブルーオーシャン戦略と従来の戦略の根本にある考え方の違いを知れば、ブルーオーシャンを見つけ出すのもかなり容易になると思われます。

 

ブルーオーシャン戦略の事例

シルク・ドゥ・ソレイユが結成された頃、多くのサーカス団は、伝統的なサーカスの出し物にささやかな工夫を凝らして、互いに競争していました。

たとえば、人気者のピエロやライオン使いの争奪戦を行い、似たり寄ったりの出し物に莫大なコストをかけました。そのため、売上げは伸びず、コストがかさみ、サーカス業界全体の低落に歯止めがかからないという悪循環に陥りました。

そこでシルクは、低コストでしかも、差別化できる大きな提供価値を模索したのです。

まず、演目の見直しから着手しました。その結果、これまでスリルや楽しさを演出する際、欠かせないと思われていたことの多くが不必要であり、えてしてコストがかさむことが判明しました。たとえば、動物やスター芸人です。これらは高いコストがかかりました。

シルクは、三つの持ち味に絞り込みました。「ピエロ」と「テント」、「アクロバット演技」です。

ピエロはどたばた劇ではなく、もっと魅力的で洗練された笑いを提供することにしました。サーカス団の多くは安価なレンタルのテントでお茶を濁していましたが、シルクはテントこそほかの何にも勝るサーカスの魅力を象徴するものだと見抜き、デザインに凝りました。アクロバットも、役割を絞り込んで芸術的な演技に集中させました。

伝統的なサーカスの要素を捨て去る一方で、演劇、ミュージカル、バレエなどから学び、テーマを設け、ストーリー性を持たせました。

シルクが提供したのは、サーカスと芸術のおいしい部分でした。コスト要因を取り除き、しかも非常に洗練されたエンタテインメントを創造しました。そのおかげで、コストは削減され、それでいて提供価値が大きくなり売上げは増加しました。

シルクとは、サーカスなのか、ミュージカルなのか、それともバレエなのか? シルクの魅力は、これらのジャンルから取り込んだ要素を再構成して生まれたものです。サーカスと劇場というレッド・オーシャンのなかから、シルクはブルーオーシャンを創出したのです。

 

【教訓】

シルク・ドゥ・ソレイユは、1984年カナダで設立されたエンタテインメント集団です。実は2020年、コロナ禍で世界中の公演が中止され、いったん経営破綻しました。その後、再建され、2021年6月から公演を再開しました。日本では、東京での公演が今日(2023年2月8日)から開幕します。

日本でもブルーオーシャン戦略を用いていると見られる事業があります。

QBハウスは、早くて(10分)安い(1200円)散髪という市場を掘り起こしました。進学予備校の東進ハイスクールは、映像やDVDを用いることで、現役高校生や地方にいる浪人生も顧客にすることに成功しました。ほかに、ZOZOTOWNや星野リゾートブルーオーシャンを創出したと言えるでしょう。