書名:星の子
著者:今村夏子
出版社:朝日新聞出版
出版年:2017年
主人公は、高校受験を控えた中学3年生の少女、林ちひろです。ちひろが両親から聞いた話は、次のとおりです。
<幼い頃は虚弱でした。生まれてから3か月近くを保育器のなかで過ごしました。退院してからも、次々と体調不良を起こし、病院に連れて行ってもらうことが多かったのです。生後半年目に患った湿疹の症状がひどく、専門医だけでなく民間療法も試されたのですが、治りませんでした。父が勤務先で同僚から「金星のめぐみ」という水を勧められて、その水のおかげで病気が完治し、ちひろは健康になりました。>
水を勧めてくれた父の同僚は宗教団体の信者で、両親もその宗教に入信することになります。
宗教二世であるちひろの目線から、姉や友達、先生、親戚との微妙な温度差がうまく描写されています。姉は家出をし、両親と親戚が断絶し、引っ越しのたびに住む家が段々と狭くなっていきます。イケメン先生への恋心と葛藤もありました。所々、周囲からの偏見といった様子も垣間見えます。
しかし、両親は優しそうだし友達もいるし、ちひろは苦痛を感じているようには見えません。もし、両親の目線、姉の目線、親戚の目線、友達の目線、あるいは先生の目線で見れば、違った光景となるでしょう。
宗教団体の研修旅行で、ちひろと両親は夜空を見て流れ星を探します。3人はなかなか同じ流れ星を見つけられせん。物語はその夜、3人がいつまでも星空を眺め続けるところで終わります。
家出をした姉はわからずじまいです。親子の愛情や友達との友情は感じるのですが、何か、もどかしさが残る読了感でした。