【制度の概要】
国民年金の被保険者は、次の三つに分類されます。
・第1号被保険者
自営業者、学生、無職の人やその配偶者などで、第2号被保険者や第3号被保険者でない国内に居住する20歳以上60歳未満の人です。
・第2号被保険者
会社員や公務員などの厚生年金の加入者です。なお、厚生年金には加入要件があります。
・第3号被保険者
第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者です。収入の要件があります。
第1号被保険者と第2号被保険者は保険料の納付が義務となっています。一方、第3号被保険者は保険料の負担がないけれども、加入期間が将来の基礎年金額に反映されます。
ただし、第3号被保険者には、年収が130万円未満(60歳以上である人または一定の障害がある人の場合は年収が180万円未満)という要件があります。この被保険者には性別の要件はありませんが、女性が大宗を占めています。
こうした制度は国民皆年金が実現した当初(1961年)は存在しておらず、1985年に年金制度改正が行われ導入されたものです。
国民皆年金当初、会社員などに扶養されている配偶者は任意加入でした。会社員などの年金で夫婦二人が生活できるような給付額を設定されていたからです。当時は、専業主婦世帯が多数でした。
しかしながら、年金に加入していないと、障害や離婚に対して保障が及ばないという問題がありました。そこで年金制度改正により、会社員などの配偶者については「第3号被保険者」として国民年金の強制加入対象とされました。
【制度上の問題点】
女性の働き手が増加するのに伴い、問題点が浮き彫りになってきました。
第3号被保険者が存在する世帯では、保険料負担がなく将来年金給付が受けられるという点で、不満はあまりないだろうと思われます。一方、第3号被保険者がいない世帯では、不公平感を生じることになります。
また、第3号被保険者の地位にあるパート勤務者には、年収の上限を決めた働き方をしたいという動機づけが生じ、勤労意欲を妨げる恐れがあります。厚生年金保険料や健康保険料は労使折半であるため、勤務先側も保険料負担をなるべく節約したいという意思が働くでしょう。
【社会保険の適用拡大】
数次の改正を経て、社会保険(厚生年金、健康保険)の適用拡大が進められています。現在の適用拡大要件は次のとおりです。
① 厚生年金被保険者101人以上の企業等
② 週の所定労働時間が20時間以上
③ 所定内賃金が月額88,000円以上
④ 2か月を超える雇用の見込みがあること
⑤ 学生ではないこと
なお、2024年10月から厚生年金被保険者数が51人以上の企業等でも同様の要件で社会保険加入が義務化され、適用拡大がさらに進展します。
【第3号被保険者制度の将来】
少子高齢化が進む中で、できるだけ多くの人に年金制度の支え手になってもらいたいところです。社会保険の適用拡大を進めると、第3号被保険者が減少することが容易に想像できます。また、健康保険についても被扶養者が減少することから、保険料を拠出する人が増えます。
一方、勤務先側は労務費が増加することが見込まれます。所定の給料以外に社会保険料、残業代、退職金など、労働者を雇うコストが高くなります。生産性の向上が不可欠です。
国民年金制度の発足時からの経緯を見て、第3号被保険者の制度を廃止するとか、その方々に保険料の納付を義務化するのは、少々無理があると思われます。社会保険の適用拡大をさらに進め、第3号被保険者を減少させ、問題点を薄めていくというのが現実的ではないでしょうか。