仕事力

心に響く自己啓発

「日の名残り」を読んで

書名:日の名残り

著者:カズオ・イシグロ

出版社:早川書房(ハヤカワepi文庫)

出版年:2001年

 

主人公は、イギリスの大邸宅の老執事です。執事は召使いを部下に持ち、いわば邸宅の総務部長のような存在です。第二次世界大戦後、その邸宅のあるじは、イギリス貴族からアメリカ人の富豪に変わりました。

主人公は、先代のあるじを尊敬し、邸宅で催された重要な外交会議や著名人との接待などを運営してきました。彼は「偉大な執事とは何か」を追求する真面目一筋の人物です。

一人の老執事にスポットライトを当てながらも、二つの大戦が背景にありスケールの大きさが感じられます。

1956年、新しいあるじから、短期間の休暇を取り小旅行をしてはどうかと、オファーがありました。その頃、かつて務めていた女中頭から主人公に手紙が届きました。いっしょに働いていた頃を懐かしむ内容で、行間から職場復帰の願望を彼は読み取りました。かつての女中頭に再会するために、主人公は旅立ちます。

旅の途中に、先代の下で働いていたことや執事の鑑と言える父のことなど、多忙な日々を主人公は回想します。美しい田園風景を思い描きながら、イギリスの伝統的な品格というものに触れられるでしょう。

かつての女中頭と再会を果たし、主人公に恋心を抱いていたことも、ゆるく打ち明けられます。主人公は職務に専念しすぎて、その淡い想いに気づかなかったのでしょう。

過去を振り返るばかりであった主人公は、物語の最後に未来に目を向けます。アメリカ人のあるじを喜ばせるためにジョークを練習しようと。この決意はジョークではなく、生真面目な主人公としては本気でしょう。