書名:若冲(じゃくちゅう)
著者:澤田瞳子(さわだ とうこ)
出版社:文春文庫
出版年:2017年
この本は、江戸時代後期の絵師、伊藤若冲の生涯を思い切ったフィクションで描かれたものです。史実では明らかにされていない部分、とくになぜ彼の絵が独創的なのかを、著者の想像力で説明されています。
若冲は、京都錦小路にある青物問屋の長男として生まれるも、家業が性に合いませんでした。40歳を機に家督を弟に譲り、絵師の仕事に専念します。85歳で死ぬまで絵を描き続けました。実家から仕送りがあり、また彼の絵が世に認められ、お金の面で困ることはありませんでした。史実では、彼は結婚していません。
しかし、この物語では、若き日に妻をめとりました。家庭の問題でその妻が自殺してしまう設定になっています。妻を守れず、妻の弟から生涯憎まれることになります。その後悔の念、苦悩が、独創的な絵を描くように彼を突き動かしました。
史実と創作の境がまったくわからない筆致が見事です。本当にそうだったのかと、思ってしまいます。そこがこの物語のすごいところです。
ただ美しいだけの絵では、世の中で認められなかったことでしょう。若冲の心がこもった作品だからこそ、見る人を感動させたものと思われます。
プロの芸術家の仕事力を堪能させてくれる物語でした。それは若冲についても言えますし、この物語の著者、澤田さんについても言えることです。素晴らしい本を拝読できました。