返報性の原理とは、人から親切にしてもらったときに「同等のお返しをしないといけない」と感じる人間にとってごく自然な心理現象のことです。ロバート・B・チャルディーニさんの名著「影響力の武器 第二版」(誠信書房 2007年)*1に、この返報性について詳しく解説されています。
親切にしてくれた相手から何かを頼まれると、返報性の原理が働いて断りにくいものです。
以前、商店街を歩いていると、ティッシュペーパーを配布していたので、僕は気軽にそれを1個いただきました。そしたら、店員が近づいてきて、携帯電話の露骨な勧誘を受けました。そこで、ティッシュペーパーを店員に返し、勧誘を断りました。著書によると、もっとしつこい寄付金などの勧誘もあるそうです。
返報性の原理を応用した交渉のテクニックとして有名なのが「ドア・イン・ザ・フェイス」です。これは、いったん過大な要求をし拒否されたら、小さな(本音の落としどころに近い)要求を出し、受け入れてもらおうというテクニックです。「ドア・イン・ザ・フェイス」という言葉は、「shut the door in the face(人を入れずドアを閉める)」が由来で、セールスマンが顧客先へ訪問した際、「門前払いされることを覚悟の上、ドアから顔をのぞかせる」という行動が描写されています。著書には、別名「拒否したら譲歩法」と記されています。
たとえば、ちょっとした借金の交渉場面で、
借り手「財布を忘れたので、1万円貸してもらえませんか」
貸し手「私の財布のお金がなくなるので、それはできません」
借り手「交通費があれば何とかなるので、2千円だけ貸してもらえませんか」
貸し手「わかりました。2千円お貸しします」(借り手が譲歩してくれたことに恩義を感じ、恩義に報いなければならないという心理が働く)
借り手「助かります。明日、必ずお返しします」(これでランチ代も確保できて、よかった!)
返報性の原理を使った勧誘に対する防衛方法も、著者は述べています。
他者の最初の申し出を常に拒否してしまうことではない。むしろ、最初の好意や譲歩は誠意をもって受け入れ、後でトリックだとわかった時点で、それを再定義しておくことである。そのように再定義することができれば、受け取った好意や譲歩を返さなければという気持ちになることはないであろう。
他者の好意は誠意をもって受け取ればよいけれども、悪意があることがわかれば、毅然とした態度で応対すること大切だと思いました。
*1:「影響力の武器 第三版」が出版されています。