論文名:「オーグメンテーション:人工知能と共存する方法」
著者:トーマス・H・ダベンポート、ジュリア・ガービー
出典:「人工知能―機械といかに向き合うか」 ダイヤモンド社 2016年
発表年:2015年
【あらまし】
自動化で仕事は奪われるのか
<自動化の三つの時代>
19世紀:第1期 危険で汚い仕事(機織りや綿繰りなど)が機械に移行する
20世紀:第2期 退屈な仕事(ルーチン作業や事務作業など)が機械に移行する
21世紀:第3期 人が行っていた意思決定が機械(人工知能)に移行する
こうした状況を従来と違う枠組みでとらえたらどうかと、著者らは述べています。すなわち、「機械で迅速に安価にできるものは何か」を問うのではなく、「機械が人を補助してくれたら、どんな偉業を成し遂げられるか」と問うのです。「自動化(オートメーション)の脅威」を「拡張(オーグメンテーション)の機会」という枠組みでとらえ直すことです。知識労働者も機械と力を合わせる方向で仕事をこなすことが、オーグメンテーションの促進につながるのです。
転職者の住宅ローン審査の事例
転職直後に住宅ローンの借り換えを申請した男性がいました。この男性は政府機関で8年、教員として20年以上のキャリアがありました。申請は、自動化された審査システムによって却下されました。
この男性とは、FRB(連邦準備制度理事会)元議長のベンジャミン・バーナンキ氏でした。彼は当時、実入りの良い書籍執筆や講演の仕事を持っていました。コンピュータと人が連携することにより、こうした過ちを防ぐことができます。
オーグメンテーションへのアプローチ
著者らは、①向上する、②譲る、③介入する、④範囲を絞る、⑤前進するという五つのアプローチを提案しています。僕は、これらのアプローチを次のように解釈しました。
① 人工知能を使って導き出した結果に、人が人間らしい洞察を加える……向上する
② 体系化できない、言葉にできない人の強みにフォーカスを当てる……譲る
③ 人工知能が正しく作業できる状況を維持し改善していく……介入する
④ 自動化してもコスト削減効果がない得意分野を狭く深く究める……範囲を絞る
⑤ 次世代のコンピューティングや人工知能ツールの構築を目指す……前進する
レースの種目を変えて勝つ
最後に著者らは、こう述べています。
オーグメンテーションを重視することで、自動化の脅威を取り去り、機械とともに臨むレースを短距離走ではなくリレーに変えることができる。人間からコンピュータへ、またコンピュータから人間へのスムーズなバトンの受け渡しに成功した者が、勝者となるのである。
【教訓】
本日(2023年9月24日)の日経電子版に、「『AI失業』米国で現実に 1〜8月4000人、テックや通信」という記事が掲載されました。
米雇用調査会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスは米国企業のレイオフ調査で、AIが理由の人員削減計画を集計すると、米企業は1~8月に約4000人の削減を公表したとのことです。全体の1%弱の規模になります。
米コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーによると、比較的、単純な反復業務であるオフィス業務支援や営業職などが自動化で減少する見込みです。一方、高度なスキルが必要な「知識労働」の雇用は増えるとしています。STEM(科学、技術、工学、数学)関連や医療、法律などの専門職種は生成AIで生産性が高まり、仕事の量も増えるとの分析をしているのです。
IBMでは「単純な繰り返し作業に当たるバックオフィス業務職の3割程度が今後5年間でなくなる」との見方を示しました。こうした職種はそのまま雇用を減らすのではなく、従業員の配置転換を軸に対応するため、今夏には世界の従業員向けに生成AIの研修(リスキリング)を実施したとのことです。
人工知能との共存を本格的に模索しないといけない時代になりました。