書名:地下鉄(メトロ)に乗って
著者:浅田次郎
出版社:講談社文庫
出版年:1999年
メトロがあたかもタイムトンネルのようです。出口につながる階段を上り地上に出ると、そこは過去の世界です。夢を見て過去の世界にさかのぼることもありました。戦前、戦中、敗戦後の東京やソ連が進軍して来る満州にタイムスリップしました。
主な登場人物は次のとおりです。
主人公…小さな衣料会社に勤める営業マン。兄の死後、家出
妻と子供…妻はパートで働いている
父…世界的な大企業の創業者。体調が芳しくなく入院中
母…主人公が家出した後、母もまた家出し主人公と同居
兄…東京オリンピックが開催される1964年に自殺
弟…父の会社の後継者で、主人公に父との和解や経営の支援を求める
愛人…主人公の勤務先の衣料デザイナー。主人公が本音を言える唯一の女性
兄の死後、主人公と母は家を出て、父を憎みながら疎遠になります。
主人公はタイムスリップするたびに、父、兄、愛人の過去について目の当たりにします。
父については、傲慢で自分本位の憎いやつと思っていたのですが、過去を知ると苦労人で他者にやさしい人でした。
兄は、父と口論の末、メトロの線路に飛び込んで自殺しました。主人公はタイムスリップして、兄に会い助けようとがんばります。ところが、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のようなハッピーエンドにならず、自殺を阻止できませんでした。
愛人に対して、主人公は今の妻子と別れて再婚したいという思いを抱きます。愛人とともにタイムスリップし、その愛人をみごもる女性と会いました。その女性は石段から転げ落ちて、母子ともに死んでしまいます。主人公が現在の世界に戻ると、愛人の存在がこの世から消えていました。主人公の家庭が幸せなものであって欲しいと願う愛人の愛情のようにも捉えられます。
親子、兄弟、恋愛の関係を綴る物語ですが、切ない気持ちと温かい気持ちが混在する読後感でした。