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心に響く自己啓発

「深みのある人」とは?

明治大学教授、齋藤孝さんの著書「『深みのある人』がやっていること」(朝日新書 2023年)を拝読しました。冒険家、植村直己さんの顔写真のことから始まり、その笑顔を見て彼こそが「深みのある人」だと述べられています。

フードですっぽりと覆った中に、日焼けまたは凍傷で黒くただれた顔。そこが厳しい環境下であることは、すぐわかります。しかしその表情は満面の笑顔で、充実感と幸福感にあふれている。

年齢を重ねるにつれ、体力や記憶力が低下したり、ITの急速な発展について行けなくなったりします。けれども、加齢によって得難いものが得られる、それが「深み」だと、著者は説きます。

最近、「タイパ(タイム・パフォーマンス)」という言葉を耳にします。短時間で効率を重視する言葉ですが、そこには「深み」がありません。昨今の「浅さ」の風潮に、著者は危機感を抱いています。

人生とは世の中の深みを味わうことにあり、そのことが人生を幸福なものにするのだろうと、語られています。

「深み」は植村直己さんのような冒険をしなくても、平凡な日常の中にもあります。時には失敗もしますが、真摯に物事に取り組んでいると、経験を重ねた時、その人の深みとなるそうです。深みは他者と競うものではなく、個々人の成長の中にあると、僕は解釈しました。

著者はまた、個人の努力や経験だけでなく、人から人への継承によっても「深み」がつくられると言っています。

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本がアメリカと互角に戦えたのは、日本プロ野球90年の歴史にあります。WBC強化合宿の初日からダルビッシュ投手が参加し、後輩に投球技術などのアドバイスを積極的に行ったことは周知のとおりです。いわゆる「ダルビッシュ塾」です。

しかし、その投球技術などはダルビッシュ投手単独のものだけではないと言えます。彼が先輩から学び、その受け継いだことを土台にして、彼が創意工夫したものです。まさしく人から人への継承であり、歴史であり、伝統なのです。

僕の経験はほとんどがビジネスに伴うものです。会社にノウハウが蓄積されており、最初は先輩から指導を受けました。いつしか今度は、後輩や部下に指導する立場になりました。ノウハウやスキルが伝承されています。まだまだ浅いですが、僕も多少は「深み」のある部分も取得できたように思います。