佐藤愛子さんが著されたエッセイ集「九十歳。何がめでたい」(小学館 2016年)を読ませていただきました。
著者は、大正12年(1923年)大阪市生まれ、兵庫県西宮市育ち、東京都世田谷区在住、夏は北海道の別荘在住の方です。
さすが直木賞受賞作家だけあって、難しい言葉や漢字が散見されますが、表現力が素晴らしかったです。
また、ご高齢とは思えないほど、力強くテンポが良くて、切れ味が鋭い文章を書いておられます。
主に新聞などで得たネタをエッセイになさっているようですが、新聞の「人生相談」を話題とした話がいくつかありました。
著者が若い頃の人生相談は、か弱い女性の涙ながらの相談事が多かったとのことです。それらの相談事について新聞の回答は、女性に我慢や忍従を説き、いずれ必ずや幸福が訪れるというものがほとんどだったとのことです。
女性の地位向上に伴い、近年の人生相談の内容は変容したとのこと。このことについても鋭い批評をなさっておられます。
著者はまた、厳しい論説の中に、ユーモアたっぷりの表現やジョークを散りばめておられます。僕がとくに感心した話を紹介させていただきます。
・老いの夢
同い年の友達との無駄話の中で、我々の夢は何だろうということになった。
「私の夢はね、ポックリ死ぬこと」
と友人はいった。
ポックリ死が夢?
なるほどね、といってから、けれど、と私はいった。
「あんたは高血圧の薬とか血をサラサラにする薬とかコレステロールを下げる薬とか、いっぱい飲んでるけど、それとポックリ死とは矛盾するんじゃないの?」
すると、憤然として彼女はいった。
「あんた、悪い癖よ。いつもそうやってわたしの夢を潰す……」
・花粉症
ティッシュで拭いても拭いても出る。拭く尻からタラタラと出てくるさまはまるで底なしの泉を顔の奥に抱えているようだった。
・テレビのトーク番組
論客の問題提起が進んで行く。
「バスタオルというものはお風呂に入って綺麗になった身体を拭くのだから、洗濯を毎日する必要はないのではないか」
これが「日本の未来を眞剣に考えるトーク」だというのか!
僕は、著者より随分若いですが、「アラ古希」です。
この頃、難しい本や、なかなか興味のわかない本を読むと、まるで花粉症のように鼻水タラタラ、涙ハラハラとなってしまいます。何度も顔を洗いに行き、根性で読むことが多くなりました。
しかしおかげさまで、この本は、一度も顔を洗いに行くことなく、拝読できました。