論文名:ファイザーはなぜ驚異のスピードでコロナワクチンを開発できたのか
出典:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2021年7月号 ダイヤモンド社
発表年:2021年
【あらまし】
この論文は、前例のない新型コロナワクチンをスピード開発したプロセスと、そこからの学びを述べるものです。
ワクチン開発過程
2020年1月:中国武漢で深刻な呼吸器系疾患が発生したことを、ファイザーが知覚した。
同年3月1日:ドイツのビオンテックから同社で開発中のメッセンジャーRNA(mRNA)を用いたワクチンのパートナーとして参画するか、ファイザーに打診があった。
同年3月11日:世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症のパンデミックを正式に宣言した。
同年3月16日:ファイザーはビオンテックと共同して、新型コロナ感染症のワクチン(および治療法)の開発を決定した。これは30億ドルの出費を意味します。なお、mRNAワクチンが臨床使用の承認を得たことは、これまで一度もありませんでした。
同年3月19日:全社員にワクチンのスピード開発を通知した。
同年4月12日:ラボでの研究により、20種類あったビオンテックのワクチン候補を4つに絞り込んだ。
同年4月23日:4種類のワクチン候補について、4種類同時に人体を対象にした第1相試験に着手した。
同年5月:2種類のワクチン候補に絞り込んだ。また、2週間の間隔を開けて2回の接種が必要だと判明した。
同年7月23日:ワクチン候補を1種類に絞り込み、第2相試験および第3相試験を同時に進めることを決定した。
同年11月8日:中立の立場にある外部モニタリング委員会は、ワクチン使用許可を申請することを強く推奨すると判断した。
同年12月8日:世界で最初に承認したイギリスで、ワクチン接種が開始された。
同年12月14日:アメリカでワクチン接種が開始された。
同年末までに、7400万回分のワクチンを生産し、4500万回分超を出荷した。
ワクチン開発から得られた6つの学び
1 成功とはチームワークの結果である。
2 目標を最優先にしても採算が取れる場合がある。
3 正しい目標に向けた壮大なる挑戦は組織を活性化させる。
4 巨大な目標を掲げた時は、それを実現するために必要な「従来の常識を破る考え方」をするよう働きかけねばならない。
5 研究者に財政面の心配をさせないようにした点と、官庁から資金援助を受けず対官庁事務作業が過度にならなかった点が、成功を促進できた。
6 喜んで協力することの大切さを学んだ。
【教訓】
僕はこの論文を読んで、3つの点で驚嘆しました。
1 ワクチンの研究開発と製造のスピードです。
これまでのワクチン開発は、毒性を弱めたウイルスの変種を育てることから始まるので、最低でも4年の歳月を要しました。その点、mRNAの開発スピードは早いです。
臨床試験のスピードも目をみはるものがあります。
ファイザーは、mRNAワクチンを製造した経験がなかったのに、生産、保管、輸送も滞りなくできるよう創意工夫しています。ご存知のように、超低温で保存しないといけないワクチンです。
2 ビオンテックのmRNAワクチン候補が確かなものだと判断した、ファイザーの慧眼(けいがん)がすごいです。
もし、安全性や有効性に問題があるワクチン候補ばかりだったら、いくら臨床試験などを行っても失敗します。
3 大胆な判断で、お金を惜しまなかったことです。
開発スピードを優先したため、政府からの資金援助は受けず、早期に自社で30億ドルの支出を決定しました。