ハワード・シュルツさんは、世界的なコーヒーショップチェーン、スターバックスを成長発展させた実業家です。
シュルツは、著書「スターバックス成功物語」(日経BP社 1998年)で次のように語っています。
父は1988年1月に肺癌で亡くなったが、このときほど悲しかったことはない。父には貯金も年金もなかった。何より胸が痛んだのは、父が自分の仕事に生きがいも誇りも持てなかったことである。
少年時代の私は、いつの日か自分が会社の経営者になろうとは夢にも思わなかった。しかし、何かできる立場になったときには決して人々を見捨てるようなことはしないと固く心に誓っていた。
シュルツは、彼の父と同様に何の技術も持たずにスターバックスに入社した人たちに、手に職を持たせ、仕事に誇りを持たせ、会社との信頼関係を築きました。客観的に目に見える施策としては、原則として現場の販売員なども含め全社員を対象とする健康保険制度やストックオプション制度を導入したことです。
アメリカには、日本のように全国民をカバーする公的医療保険制度がありません。国民の半数くらいが企業の用意した民間の健康保険に入っています。国民の多くがまだ健康保険に入っていないと言われています。アメリカのスターバックスでは、パートさんでも健康保険に入っています。
健康保険に入ることができるので、離職率は低くなりました。その結果、従業員採用などにかかるコストが削減されました。
「ストックオプション」とは「新株予約権」の一種で、会社が従業員に対して特定の金額で自社の株式を購入する権利を与えることです。スターバックスの株式が市場公開された後に、従業員はその株を当初約束した安い価格で取得し、市場で売却することによってキャピタルゲイン(値上がり益)を得ることができます。
ストックオプションを得た従業員は、賃金をもらう単なる労働者ではなく、パートナーと言えます。彼らは、自発的に収益の拡大やコストの削減を行う原動力となりました。品質の良いコーヒー作りや接客態度を売り場にもたらしたのではないでしょうか。
スターバックスが発展したのは、社訓にも表れています。
・働きやすい環境を提供し、社員が互いに尊敬と威厳をもって接する。
・事業運営上の不可欠な要素として多様性を積極的に取り入れる。
・コーヒーの調達・焙煎・流通において、常に最高級のレベルを目指す。
・顧客が心から満足するサービスを提供する。
・地域社会や環境保護に積極的に貢献する。
・将来の繁栄には利益率の向上が不可欠であることを認識する。
シュルツはマーケティングや営業の達人で、規模が小さい当初はその力で事業を軌道に乗せました。しかし、さらに事業を発展させたのは、従業員の採用・教育・昇格などの人事制度の力です。いかに優れた施策であっても、それに命を吹き込み、意味のある結果を生み出すのは従業員なのだと、シュルツは力説しています。