アーネスト・ヘミングウェイさんの著書「移動祝祭日」(新潮文庫 2009年)を拝読しました。この著書には、1921年から1926年にかけて彼がパリで過ごした若き日の思い出が描かれています。
冒頭に、彼が友人に贈った言葉が記されています。
もし幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、その後の人生をどこで過ごそうとも、パリはついて来る。パリは移動祝祭日だからだ。
彼にとってパリは移動祝祭日だったのです。著書の最後で、こう締めくくっています。
ともかくもこれが、その昔、私たちがごく貧しく、ごく幸せだった頃のパリの物語である。
パリでの出来事の数々が記されています。多くの人たちと過ごした思い出、良いことも悪いことも。カフェで楽しんだこと、スポーツに興じたこと、作品を執筆するのに勤しんだことも。
僕はこの著書で、ノーベル文学賞作家、ヘミングウェイの奥義を垣間見ることができました。文筆活動のコツと言えばピッタリかもしれませんが、あえて大げさに奥義と言わせていただきます。
(奥義1)
私はいつも一つの区切りがつくまで仕事をつづけ、いったん切り上げるのはストーリーの次の展開が頭に浮かんだときと決めていた。
このようにすると、翌日も仕事が続けられる自信が持てるそうです。
(奥義2)
それでも筆が進まないときがあります。そういうときは、こう自分自身に言い聞かせるのだそうです。
”心配しなさんな。おまえはこれまでちゃんと書き継いできたんだ。こんどだって書けるさ。やるべきことは決まっている。ただ一つの真実の文章を書くこと、それだけでいい。自分の知っているいちばん嘘のない文章を書いてみろ”
(奥義3)
いったん書くのをやめたら翌日また書きはじめるときまでその作品のことは考えないほうがいい、ということに思い至ったのも、その部屋で修行を重ねているときだった。
作品から離れている間には、人の話を聞いたり、森羅万象を観察したり、読書をしたりするそうです。作品のことは潜在意識に受け継いでもらい、努力だけでなく幸運にも頼れば、良い作品ができあがるようです。
この著書を読了した当初は、読書感想文にしようと僕は考えていました。しばらく著書から離れている間に、文筆活動の奥義をヘミングウェイに教えてもらったのだと、気づきました。
ヘミングウェイという天才と誰もが同じようにできるとは言えませんが、教訓にしたいと思います。