仕事力

心に響く自己啓発

まず思うこと

稲盛和夫さんの著書「生き方」(サンマーク出版 2004年)を拝読しました。鹿児島大学工学部を出られた著者でさえも、新卒入社試験でなかなか合格できなかったそうです。人が人を的確に評価するということが、いかに難しいかを物語っています。

ところで、著者が「まず思うこと」の大切さを肌で感じたのは、松下幸之助さんの講演を初めて聴いたときです。

当時の松下さんはそれほど有名ではなかったのですが、「ダム式経営」の話をされたそうです。話の要点は次のとおりです。

ダムを持たない川は、大雨が降ると洪水を起こす。日照りが続くと水不足を生じる。だからダムをつくって水をため天候に左右されることなく水の量を一定に保つ。会社経営においても、好不況に備えて蓄えておく、そういう余裕のある経営をすべきだ。

聴衆の中小企業経営者たちは、口々に不満をつぶやきました。「そんな余裕がないから、苦労しているのだ」と。

一人の聴衆が松下さんに質問しました。「どうしたらダム式経営ができるのか、その方法を教えてもらわないと、話にならない」と。

松下さんはポツリと、こうつぶやかれました。

「そんな方法は私も知りませんのや。知りませんけれども、ダムをつくろうと思わんとあきまへんなあ」

松下さんの言葉は答えになっていないと、大半の聴衆は失望しました。

しかし、稲盛さんは「思わんとあきまへんなあ」という言葉に、とても重要な真理があると気づきました。まずダムをつくろうと思うことが、すべての始まりで、そう思うことによってダムをつくれるのだと。

事をなそうと思ったら、まずこうありたい、こうあるべきだと、強く、身が焦げるほどの熱意をもって思うことだと述べています。

また、同じものを見聞きしても、そこから重要なヒントを得る人もいれば、ぼんやり見過ごしてしまう人もいます。日ごろの「問題意識」も大切だと述べられています。

なお、ダム式経営は内部留保の充実とも言えます。最近の日本企業は内部留保が多すぎると批判されています。ですが、ダム式経営は悪いことではありません。従業員の賃金を引き上げ、設備投資も計画的に行い、社会的責任もまっとうし、その上でダム式経営を志向すべきなのです。

何かの目標を掲げたら、「まず思うこと」「思って、思って、思いつづける」の大切さを学びました。