仕事力

心に響く自己啓発

社員に堂々と働いてもらうには

多くの企業では、目標を定め、ノルマを決め、期限までにやりきるといったやり方を行なっている。それは、社員全員に目いっぱい頑張らせることを意図している。社員に余裕はない。

ワークマンの専務取締役を務めておられる土屋哲雄さんの著書「ワークマン式『しない経営』」(ダイヤモンド社 2020年)を拝読して、著者たちはそうした多くの企業と真逆のことをやっていることを知った。

著者は30年以上、商社で営業や新規事業の立ち上げの仕事をしてきた人だ。著者が還暦を迎えようとしていた頃に、ワークマン創業者である叔父から呼ばれて同社に勤務することになった。叔父はこう指示した。

「この会社では何もしなくていい」

商社でファイターのように働いてきたやり方をやめなさい。そして、じっくりワークマンの事業を研究し、大きな視点で同社のために貢献して欲しいとの期待がこの言葉に込められていると、著者は解釈した。

ワークマンは、作業服の製造小売業界でブルーオーシャン市場を歩んできた会社である。著者は、企業風土改革に取り組んだ。そのひとつに、長年培われた「しない経営」を深化させることがあった。社員が堂々と働く風土に改革することだと言える。

深化させた「しない経営」をもう少し細かく言うと、次のようになる。

◎社員のストレスになることはしない

  残業しない。

  仕事の期限を設けない。

  ノルマと短期目標を設定しない。

◎ワークマンらしくないことはしない

  他社と競争しない。

  値引きをしない。

  デザインを変えない。

  顧客管理をしない。

  取引先を変えない。

  加盟店は、対面販売をしない。閉店後にレジを閉めない。ノルマもない。

◎価値を生まない無駄なことはしない

  社内行事をしない。

  会議を極力しない。

  経営幹部は極力出社しない。

  幹部は思いつきでアイデアを口にしない。

僕が総務職として務めた勤務先で営業部を見ていると、こんな状態の部署であった。

長時間労働をする。厳守すべき期限とノルマがある。ライバル企業と激しい販売競争をする。売上アップのために値引きをする。社員のモチベーションを維持するために、宴会などの社内行事を積極的に行なう。会議をしばしば開催する。経営幹部は、部長や課長がやるべきことにまで口を出す。

若手営業マン二人と、宴会の幹事をしたときのことである。彼らは言葉巧みであり、ともかく調子がいい。準備作業を手伝うと、まことしやかに申し出てきた。結局全部、僕一人で作業をやった。

宴会場での実際の座席と、あらかじめ作成した座席表が一致しているか、若手営業マンたちに頼んだ。「一致しています」との報告があった。

ちょっと疑わしく感じたので、僕が確認したところ、不一致があった。レストランに頼んで座席の位置を変えてもらった。僕は「叱る」ということをあまり好まないのだが、さすがに頭にきて、彼らに「真剣にやれ」と叱った。

会社は、社員を締め付けてきた。平気でウソをつく人材を育てた。正直で堂々とした態度で働いてもらいたいものだ。

ワークマンでは、堂々とした態度の社員を育てるためのもうひとつの企業風土改革がある。著書では「エクセル経営」と記されている。データの活用である。

経営幹部は「自分の話すことの半分は間違っている」と、社員に言うそうだ。社員たちはデータを提示して、幹部や店長に堂々と意見を言う。著者たちは、そういう企業風土の会社をつくった。上の言うことに何でも服従するイエスマンを育てていない。

大半の社員がデータを活用できるようになるには、社内教育が必須である。エクセルで種々の関数を扱い、マクロまで使うらしい。

多くの企業では、まず外部業者にシステムを作ってもらう。それから、社員にその使い方について研修を行なう。

ワークマンでは、システムを設計する業者には頼まない。エクセル経営を導入する前に、数年かけてエクセルの社内教育を行なう。それから、自社の社員がエクセルでシステムを作っていく。そうすれば、実務とシステムにズレが生じない。データ活用能力も向上する。

「しない経営」と「エクセル経営」は、ワークマンの企業風土改革における車の両輪である。一般的な企業がやっていることとは異なる。この著書は、経営者やマネジャーに良好なインパクトを与えてくれる一冊である。

ちなみに僕は、「ワークマンプラス」で買った上着を羽織っている。妻は僕の買い物に懐疑的であったが、「似合っている」と褒めてくれた。