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「一万円選書」に思うこと

北海道の田舎町にある小さな書店の店主、岩田徹さんの著書「一万円選書」(ポプラ新書 2021年)を拝読しました。所在地は人口1万6千人の砂川市で、書店名はいわた書店です。

「一万円選書」とはどういうものか、まず概略を説明いたします。

お客さんから事前に送っていただいた「選書カルテ」というアンケートを著者が熟読して、おおむね一万円くらいになる10冊程度の本を通信販売するビジネスです。

「選書カルテ」は、お客さんご自身に、これまでの人生経験や現在の悩みなどを書き出してもらうもので、お客さんも真剣にならないと書けない内容です。

著者はその選書カルテの記載内容、記載されていない行間までじっくりと読み取って、お客さんのためになる、喜んでいただける本を選んでいきます。選書サービスに当っては、お客さんとコミュニケーションをとることも必要で多くの時間と労力を費やします。

しかし、選書に要する手数料はもらっていません。お客さんからいただくのは、本の代金と送料だけです。販売の肝となる選書サービスを行うには、本に関して幅広くて深い知識を要し、手間暇もかけなければなりませんが、無料なのです。

販売を促進するために、あえて販売の肝となる選書サービスを無料にするというのは、多くのビジネスにおいて教訓となります。都会の大型書店であれば、高い家賃や多くの人件費などのコストがかかります。いわた書店では、そういったコストが安く抑えられます。選書サービスを無料にしたことにより負担しなければならないコストをペイすることができると言えましょう。

いわた書店では、最新刊や旬のベストセラーを扱っていないそうです。最新刊などは、お客さんにとっては顕在化した需要です。そういう需要にマッチするのは、都会の大型書店やインターネットビジネスです。いわた書店では、お客さん自身も知らない潜在的な需要を掘り起こしています。

僕が住んでいる地域でも、小規模な書店がほとんどなくなってしまいました。小規模書店が生き残るには、一万円選書のような特色ある顧客サービスで潜在的な需要を掘り起こすことが不可欠であると言えましょう。