稲盛和夫さんの著書「生き方」(サンマーク出版 2004年)を拝読しました。著者は、神仏への信仰があつい方です。
1997年、著者は得度(僧侶になること)をなさいました。短期間ですが、初冬の肌寒い時期に托鉢(たくはつ)の修行に励まれました。ワラジからはみ出した足の指がこすれて血がにじみ、その痛みをこらえて半日も歩けば、使い古しの雑巾のようにくたびれてしまいます。
疲れきった身体を引きずり、お寺に帰る途中、公園にさしかかりました。その公園を清掃していた作業服姿の老婦人が、片手にほうきを持ったまま著者のところにやってきました。老婦人は、あたかも当然の行為であるかのように、そっと五百円玉を著者の頭陀袋(すだぶくろ)に入れてくれました。
著者は老婦人の美しい心に感激し、神仏の愛にふれたことを実感しました。他人を思いやるあたたかな心がこもった老婦人のささやかな行いに、著者は「利他の心」の真髄を学びました。
仏教の言葉に「自利利他円満(じりりたえんまん)」があります。自利と利他はつながりあっているという意味です。欧米ではギバー(与える人)という人の思考・行動タイプがあります。ギバーは、相手から受け取るもの以上に与えようとするタイプです。
他人のために尽くすことが、他人の利だけにとどまらず、めぐりめぐって自分も利すると気づいている方々もいらっしゃいます。
稲盛さんの大きな器の原点を学ばせていただきました。