作家の佐藤愛子さんは、42歳の時、苦難に巻き込まれたそうです。佐藤さんの著書「人生は美しいことだけ憶えていればいい」(PHP研究所 2019年)を拝読してそのことを知りました。
かつてのご主人がその日いつになく、早く帰宅しました。せかせかとした足どりで茶の間に入って来るなり、「会社がつぶれた」と言い出し涙を流しました。
著者は一瞬呆然としました。やがて事態の深刻さがわかってきました。ご自宅は借金の担保に入っており、子供さんが「おうちにいられないの」と心配しました。
著者は気力を失いそうになりながら、懇意にしている整体の先生に体を調整してもらいに行きました。深刻な事情を伝えたところ、先生からこうアドバイスされました。
苦しいことがきた時、逃げようとすればもっと苦しくなりますよ。苦難は逃げないで受け止める方がらくなんです。
著者は勇気を奮い起こして、ご主人の借金を返済することにしました。文筆活動に精を出し、直木賞も受賞しました。そして、職業作家として生きていけるようになったと述べています。
整体の先生から聞いた言葉が、その後の人生を決めたと、著者は振り返っています。
ご主人が事業に失敗した時、法律では借金の肩代わりをする義務はありませんでした。苦難から逃げなかったため、何年も返済に苦しみました。その代わり、ご自宅を守り抜くことができました。
「逃げるが勝ち」という言葉があります。けれども借金から逃げていたら、おそらく自宅を守れなかったことでしょう。状況と自分の能力とのバランスだと、僕は考えます。状況を把握して、これはかなわないと逃げるのも一つの方策であり、挑戦するのも一つの方策です。いずれにしても、深刻な事態のなか、難しい判断です。