2か月ほど前のことだが、口に水を含んだら、右側の歯全体がジーンとしみるようになった。どの歯がしみるのか、わからない。また、上下の歯がぶつかると、右側の歯全体がズキンと痛む。だが、どの歯が痛いのか、わからない。
奥歯は全部金属をかぶせている。左下の奥歯は折れてしまって、歯医者さんに行っても治療されずに放置。よって、左側はそしゃく機能が低下しており、必然的に右側の歯を酷使してきた。その右側がしみたり、痛んだりするのだ。
もう限界かな? 抜歯されるのを覚悟して、恐る恐る歯医者さんを訪ねた。
前回の診察からブランクがあるので、まずは歯全体のレントゲンを撮られた。
「どうなさいましたか?」
歯医者さんは症状を聞いてきた。
「申し訳ないのですが、どの歯が悪いのかわかりません」と伝えた上で、冒頭のように症状を説明した。
歯医者さんは、デンタルミラーで丹念に観察しながら、空気を歯に吹きかけた。
吹きかけられるたびに、痛みが走る。ただし、どの歯が痛いのか、わからない。
「歯周病を患った形跡があります。ずいぶん歯ぐきがやせていますね。上の歯ぐきですね」と、歯医者さんは言って、空気を吹きかけた。
僕はようやく痛むところがわかった。
「いや、下の親知らずが痛いです」
歯医者さんは答えた。
「空気をかけたのは、上ですよ。下の親知らずではありません」
また歯医者さんが空気を吹きかけた。
僕は下の親知らずが痛む。
「やはり下の親知らずが痛みます」
歯医者さんは言った。
「今のも、下ではなく上に吹きかけたのです。歯や歯ぐきは神経がつながっていますから、患部と違うところが痛むことがあるのです」
歯医者さんはさらに続けた。
「患部に薬を塗っておきます。かなり苦いので、注意してお口をゆすいでくださいね」
歯医者さんは右上の歯ぐきの一か所に薬を塗った。
「これでしばらく様子を見ましょう。何かあったら、また来てください」
僕は納得いかず質問した。
「薬を処方してもらえるのですか」
歯医者さんは厳しいことを言った。
「歯ぐきは治りません。処方できる薬はありません」
僕は、帰宅して妻に愚痴った。
「上を下への大騒ぎになったけど、苦い薬を塗ってもらっただけだ。痛み止めすらもらっていない。一つだけ成果があった。患部がわかった」
妻は提案した。
「納得いかないのだったら、セカンド・オピニオンを受けたら」
僕は決意した。
「何度もレントゲンを撮られると、身体に悪い。最低1か月は様子を見る」
2週間ほどすると、右側の歯で柔らかいものをかめるようになった。
さらに2週間経過すると、違和感が残るが、ナッツなどのかたいものがかめるようになった。
さらにもう2週間経つと、ほとんど違和感がなくなった。
妻にこのことを伝えると、「歯医者さんの薬が効いて、よかったね」と言われた。
それにしても、歯ぐきがやせ衰えて、それは治療できないことを知らされショックを受けた。老人はこうやって歯がなくなっていくのだなと思った。長年の不養生がたたった。もう遅いのだが、今はまじめに歯磨きしている。iPS細胞研究の進展に期待するしかないのか?