書名:最強の経営者 アサヒビールを再生させた男
著者:高杉良
出版社:講談社文庫
出版年:2018年
1986年、樋口廣太郎(ひろたろう)住友銀行副頭取は、転籍してアサヒビールの社長になりました。当時、アサヒビールの全国シェアは10%を下回り、業界4位に転落しそうな状況で「夕日ビール」と揶揄されていました。
樋口社長は、就任の挨拶をかねて、ライバル会社のキリンビールの小西秀次会長とサッポロビールの河合滉二相談役にそれぞれアポをとり別個に訪問しました。
「わたくしはビールの素人です。ビールを良くするコツはなんでしょうか」
小西会長からは
「品質第一、そのためには良い原材料を使うことでしょう」
河合相談役からは
「商品は常に新しくなければならない。フレッシュ・ローテーションです」
と貴重な助言を受けました。このアドバイスがキリン、サッポロの業界地位を脅かすことになるとは、二人のビール業界の先輩は夢にも思わなかったことでしょう。
樋口社長の秀でたところは、①コミュニケーション力、②実行力、③熱意にあると、僕は解釈しました。
押しの強い、聞く力を含めた対話力。社員をやる気にさせるスピーチ力。樋口社長は原稿なしでスピーチを流暢に力強くやります。
安くて品質の良い原材料への仕入れ改革。古いビールを店頭から回収するフレッシュ・ローテーション。いずれも部下から「先例がない」と言われますが、樋口社長は困難を克服しながら実行します。
アサヒビールを何としてもV字回復させたいという熱意。その熱意は樋口社長が社内一でしょう。
樋口社長は幸運にも恵まれ、超ヒット商品「アサヒスーパードライ」が出現します。業績が年々回復し、次の社長時代には業界シェアがトップになりました。
僕の亡父は根っからのアサヒファンで、アサヒビールが低迷していた時代でも常にアサヒを飲んでいました。
父とよくビールを飲んだ記憶が蘇りました。ある時ふと、アサヒビールが美味しくなったなと感じました。樋口社長を始めとするアサヒビール社の企業努力の賜物であったのでしょう。
父のことを懐かしく思いながら、この著書を楽しんで拝読しました。奇跡的なV字回復でした。