田坂広志さんの著書「仕事の技法」(講談社現代新書 2016年)に記されている事例を参考にして説明します。
ある朝、重要で緊急かつ煩雑な仕事を遂行する必要が生じました。課長は、表情や雰囲気に厳しさをにじませながら、AさんとBさんを呼びました。
そして、両名にそれぞれ仕事の分担を示し、夕方5時までに会議資料を課長に提出するよう指示しました。「必要であれば、他の社員にサポートさせるから、遠慮なく報告しなさい」と、念押しして。
午前中の仕事を終えた段階で、Aさんは「一人でやれる見通しが立ったので、サポート不要です」と、課長に報告しました。
そうすると今度は、Bさんのことが不安になったので、課長はBさんに「大丈夫?」と声をかけました。
Bさんは「サポートなしで大丈夫です」と答えました。
午後4時すぎに、Aさんは「これから最終チェックに入りますから、5時までに資料を提出できます」と、課長に報告しました。
課長がBさんの進捗状況を懸念していたところ、4時半すぎ、Bさんが「資料完成です」と提出にやってきました。
課長はまだ心配で、「最終チェックは?」とBさんに聞きました。
Bさんは「最終チェックも完了しました」と答えました。
その後5時に、Aさんが資料を提出したので、無事に会議資料は完成しました。
Aさんは課長のノンバーバルコミュニケーションを察知して、心配をかけまいとタイミングよく中間報告を行いました。
一方、Bさんは、一連の仕事を近くで見ていた先輩から、こうアドバイスを受けました。
「あなたは、課長の『作業』は楽にしてあげたけれど、課長の『心』を楽にしてあげられなかった」と。
Bさんは、課長のノンバーバルコミュニケーションを察知できず、気配りが足りなかったと反省したことでしょう。
僕は30歳くらいまでBさんタイプだったと思います。僕の至らないところを上司や先輩にフォローしていただきました。
還暦以後の仕事では、Aさんタイプであったように思います。管理職の立場を経験していたことが大きいです。